汽笛が聞こえる街

アルバム『汽笛がきこえる街』

概要

1980年、日本のシンガーソングライター、村下孝蔵が初めて世に送り出したオリジナルアルバムが『汽笛がきこえる街』です。彼のプロとしてのキャリアはこの作品から本格的にスタートしました。代表曲の一つであり、彼の名を広く知らしめるきっかけとなったデビューシングル「月あかり」を核として、全10編の楽曲が収録されています。アルバム全体を通して、故郷への深い愛情や、若き日の旅立ちと別れ、そして過ぎ去りし青春の日々に対する複雑な感情が、村下孝蔵ならではの繊細かつ叙情的な筆致で描かれており、その後の彼の音楽世界に通じる原点がここに凝縮されています。タイトルの「汽笛がきこえる街」という言葉自体が、旅情や郷愁を強く感じさせます。

収録曲構成

このアルバムに収められた全ての楽曲は、作詞・作曲を村下孝蔵自身が手がけています。また、編曲は水谷公生が一貫して担当しました。オリジナル盤であるLPレコードは、A面とB面にそれぞれ5曲ずつ収録され、計10曲構成となっています。注目すべきは、デビューシングル「月あかり」とそのB面曲「松山行きフェリー」の関係です。「月あかり」はLPのB面1曲目に、「松山行きフェリー」はLPのA面1曲目として配置されており、シングルの組み合わせとは異なる配列でアルバムが幕を開ける形となっています。CD版もLPと同じ全10曲、同曲順で収録されており、各曲の収録時間は以下の通りです。

松山行きフェリー：4分04秒
ひとり暮らし：4分27秒
レンガ通り：4分14秒
二年前なら：4分42秒
青春の日々に：3分37秒
月あかり：4分12秒
酔いしれて：4分46秒
一目ぼれ：3分22秒
最後の手紙：4分01秒
故郷へ：4分28秒

リリースと再発売

アルバム『汽笛がきこえる街』はまず、当時の主要メディアであったLPレコードとしてリリースされました。その後、音楽メディアがアナログからデジタルへと大きく転換する時代の中で、多くのリスナーからの要望に応える形で、1991年に「CD選書」シリーズの一枚としてコンパクトディスクとして再発売されました。これにより、新しい世代の音楽ファンにも村下孝蔵の初期作品が広く届けられることとなりました。

村下孝蔵の原点として

『汽笛がきこえる街』は、村下孝蔵の音楽活動における文字通りの出発点であり、彼の独特の世界観が初めて本格的に表現された作品として非常に重要な位置を占めています。彼の歌声、メロディーライン、そして心象風景を鮮やかに切り取る歌詞は、このアルバムですでにその光を放っています。収録された一つ一つの楽曲には、普遍的な人間の情感、例えば青春時代の切なさ、故郷への思い、大切な人との別れといったテーマが深く織り込まれており、発表から長い年月を経た現在も、多くの人々の心に響き続けています。このアルバムは、村下孝蔵という稀有なシンガーソングライターの才能とその音楽性の根幹を知る上で、欠かすことのできない名盤と言えるでしょう。

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