沈黙の塔

沈黙の塔（ダフマ）とは

ゾロアスター教における鳥葬施設、ダフマ（ペルシア語: دخمه）、通称「沈黙の塔」は、独特な葬送方法を行う場所です。この施設は、故人の遺体を鳥に食べさせるという鳥葬を行うために用いられます。

ムンバイの沈黙の塔

インドのムンバイには、高級住宅街マラバールヒルの森の中に沈黙の塔が存在します。インドではゾロアスター教徒を「パールスィー」と呼び、その多くがムンバイに集中しています。パールスィーは経済的に裕福で社会的地位の高い人々が多い傾向があります。

鳥葬の概念

一般的に、鳥葬は伝染病を広げるなど非衛生的だと考えられがちです。しかし、パールスィーは鳥葬を環境への影響が少なく、衛生的で合理的な方法だと捉えています。沈黙の塔は、円筒形の石造りの塔で、地面よりも高い位置に遺体を安置します。これは衛生的な観点と、大地を汚さないという宗教的な考えに基づいています。

沈黙の塔の構造

塔の床は斜面になっており、窪みに遺体を安置します。遺体は男性、女性、子供の順に外側から並べられます。窪みには雨水や体液を排出する溝があり、中央の井戸に繋がっています。井戸は白骨化した遺体を投げ入れる場所で、底には木炭と砂の濾過層が設けられています。塔には、遺体管理用の鉄扉が一つだけありますが、聖域であるため、パールスィー以外の立ち入りは禁止されています。

一般公開の制限と外観

一般の人は、生い茂る木々の間から高い塀と空を舞うハゲタカを見る程度で、塔の内部を直接見ることはできません。しかし、ムンバイのドクター・バウ・ダージ・ラッド博物館（旧ヴィクトリア＆アルバート博物館）には、沈黙の塔の模型が展示されており、その外観や構造を知ることができます。近年、ハゲタカの数が減少し、上空を舞うハゲタカの姿を見ることは難しくなっています。

近年の問題

近年、ムンバイではハゲタカなどの猛禽類が減少しており、遺体の分解速度が低下するという問題が発生しています。以前は1日で分解されていた遺体が、数週間かかるようになり、近隣の住宅街に腐臭が漏れる事態が発生しました。

問題への対策

この問題に対し、科学的な解決策が模索されています。オゾン発生器で腐臭を抑えながら、太陽光反射器で太陽光を遺体に集中させることで乾燥を促し、分解を早める方法が試みられています。温度を250度に抑えることで、遺体が発火するのを防いでいます。さらに、石灰とリンを使用して骨の分解を促進する試みも行われています。しかし、これらの人工的な手法は自然の摂理に反するとして、パールスィーの一部から強い反対の声が上がっています。

他の解決策

別の解決策として、猛禽類を街で飼育し、鳥葬を持続させる方法も検討されています。しかし、この方法は費用がかさむだけでなく、猛禽類の繁殖が成功する保証はありません。また、一羽が伝染病にかかると全滅するリスクも存在します。パールスィーの中には富裕層も多く、この案に賛成する声もありますが、実現には多くの困難が伴います。

雨季の問題

雨季になると3ヶ月ほど太陽光を十分に得られず、太陽光による遺体乾燥の効果が得られないという問題もあります。この期間は腐敗が進みやすく、腐臭対策がより重要になります。

まとめ

沈黙の塔は、ゾロアスター教の独特な葬送文化を象徴する施設であり、その存在は宗教的、文化的な観点から非常に重要なものです。しかし、近年は環境の変化や技術の進歩に伴い、様々な問題に直面しており、伝統的な手法と現代的な解決策の狭間で、そのあり方が問われています。

参考資料

* 最新技術で鳥葬を - WIRED.jp

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