沢辺瀞壱

沢辺 瀞壱

日本の政治家、沢辺 瀞壱氏（1940年4月23日 - ）は、長年にわたり埼玉県飯能市の発展に貢献しました。飯能市議会議員を1期、埼玉県議会議員を3期務めた後、飯能市長として3期にわたり市政を担いました。その功績に対し、2019年春には旭日中綬章が贈られています。

生い立ちと家族背景

沢辺家は代々、現在の埼玉県飯能市岩沢地区において地域の中心的な存在として栄えてきた旧家です。瀞壱氏の祖父、庄太郎氏はかつて入間郡加治村の村長を務め、父の浩氏も飯能町の町議会議員を務めるなど、地域社会で指導的な役割を果たしてきました。

父の浩氏は教員であり、1937年（昭和12年）に一家で朝鮮の全羅南道へ移り住み、巨文島の小学校で校長を務めていました。その赴任先である朝鮮で、1940年（昭和15年）4月、瀞壱氏は誕生しました。長兄が幼くして亡くなっていたため、戸籍上は二男となっています。数年後、父の転任に伴い全羅南道の光州市へ転居。4～5歳頃は近所の子どもたちと朝鮮語で遊び、家族の通訳役も務めるほどでしたが、現在はほとんど話せないといいます。

1945年（昭和20年）、父が軍に招集された後、終戦を迎えると、母と姉と共に筆舌に尽くしがたい苦労を乗り越え日本へ引き揚げました。しかし、母まさはその際の過酷な経験がもとで、戦後間もなく亡くなっています。

母方の実家である飯能市の大野家を通じて、多くの旧家の親戚がいます。元飯能商工会議所会頭で元飯能市議の新井景三氏は従兄弟にあたります。また、父方の従兄弟には、後に日本オリンピック委員会理事を務めた上田宗良氏がいます。妻の実家である川島町の冨田家もまた旧家であり、義弟の冨田三千彦氏は同町の元教育長を務めていました。瀞壱氏自身は一男四女の父でもあります。

学歴と初期のキャリア、地域活動

地元の飯能市立加治小学校、飯能市立第一中学校で学び、獨協高等学校を経て中央大学法学部法律学科に進学しました。大学卒業後は埼玉県庁に就職し、公務員としてのキャリアをスタートさせます。

しかし、父が創業した飯能自動車学校の経営に携わるため、わずか2年で県庁を退職します。その後は家業の経営を担う傍ら、地元では飯能青年会議所の理事長やPTA会長などを歴任し、積極的に地域活動に関わるようになりました。また、大学で培った法律の知識を活かし、調停委員としても活動しました。

政治家として

1985年、飯能市議会議員選挙に立候補し、2,214票を獲得してトップ当選を果たし、政治家としての第一歩を踏み出します。1989年には、引退を表明した市川宗貞市長の後継者として飯能市長選挙に出馬しますが、16,079票を得るものの、現職市議であった小山誠三氏に約3,000票及ばず、惜敗しました。

1991年、埼玉県議会議員選挙に挑戦し、17,908票を獲得。飯能市内に強固な後援基盤を持つ現職候補を破り、自民党公認候補として初当選を果たします。県議としては県の仕事に深く関わり、県庁職員時代や教習所経営で築いた人脈を活かした活動を展開。特に土屋義彦氏の埼玉県知事誕生にも尽力しました。県議会議員としては3期連続で当選を果たし、その過程で飯能の保守勢力を実質的に統合。保守・自民党支持層の間では「沢辺党」とも称されるほどの安定した政治基盤を築き上げました。石井道子参議院議員や市川宗貞元市長から続く保守本流の系譜を受け継ぎ、左派勢力とは一線を画す立場を取りながらも、農村部や地域の有力者層からは圧倒的な支持を得ました。1995年の県議選では対立候補がなく、無投票での2期目当選を果たしています。

飯能市長時代

2001年、任期途中で県議を辞し、小山誠三市長の勇退を受けて飯能市長選挙に立候補しました。無所属でありながら自民党、公明党、連合埼玉の推薦を受け、飯能市長に当選を果たします。市長としては3期12年にわたり市政を担いました。

市長に就任すると、飯能市の将来像として「森林文化都市」を掲げ、この理念を市政運営の柱としました。具体的な政策としては、市民に親しまれていた「奥むさし駅伝」の復活、健康増進と観光振興を兼ねた「飯能新緑ツーデーマーチ」の開始（後に恒例行事化）など、地域の賑わい創出に努めました。市制50周年を迎えた2004年には、茨城県高萩市と姉妹都市協定を締結。豊かな自然環境を活かしたエコツーリズム推進にも力を入れ、エコツーリズムモデル事業地に選定されたほか、2008年には全国エコツーリズム大賞を受賞するなど、その取り組みは高い評価を得ました。2005年には隣接する名栗村との合併を実現し、市の規模拡大と行政サービスの効率化を図りました。

行財政改革では、長年の課題であった市立病院の経営改善に着手。大胆にも運営を民間へ委託することで、経営の黒字化を達成しました。また、地域経済の活性化を目指し、大河原工業団地を整備・オープンさせ、企業誘致を積極的に推進しました。高齢化が進む社会情勢を踏まえ、介護予防事業にも力を入れ、飯能市の参加率は県内1位となるなど、市民福祉の向上にも貢献しました。

財政再建に関しては、借金の先送りをやめ、未徴収となっている負担金の徹底的な徴収、市立病院の民営化といった、ともすれば市民の反発を招きかねない「不人気政策」も辞さず実行しました。スキャンダルとは無縁で、金銭的な繋がりを過度に嫌う姿勢は、一部の地元業者から反発を受けることもあったといわれます。

人口減少という課題に対し、観光政策による交流人口の増加を重視し、ウォーキングイベントなどを通じた観光振興に力を入れました。自民党員としての経歴や県議時代に築いた人脈を活かし、国や県との連携強化を図りましたが、民主党政権下や埼玉県の上田清司知事（当時）の初期には、連携にぎくしゃくした時期もありました。

2013年7月の飯能市長選挙に4期目を目指して立候補しましたが、17,763票を獲得するものの、元市議であった対立候補に約2,000票の差で敗れ落選。同年8月に市長を退任しました。

思想と人物像

沢辺氏は一貫して自民党員であり、保守的な思想を持っていました。経済政策においては、民営化や民間活用の促進を志向しつつも、完全な自由競争主義には反対の立場を取っていました。市議会レベルにおいても、共産党などの左派勢力に対しては対決姿勢で臨み、国政に関する質問に対しても詳細に反論するなど、明確な政治スタンスを持っていました。民間出身でありながら行政に関する知識が豊富で、経済、教育、文化など幅広い分野にわたって見識を示しました。「森林文化都市」という明確な方向性を打ち出したことは、その後の市政運営に一体感をもたらしたと評価されています。

個人的なエピソードとしては、アナウンサーの大沢悠里氏が高校時代の同級生であり、過去に選挙応援のために飯能市を訪れたことがあります。通っていた飯能第一中学校が当時有数のマンモス校であったため、同級生が市内全域に多数おり、これが強固な後援会組織の基盤となりました。また、友人の自宅がガス爆発で全焼した際に駆けつけ、焼け跡で茫然としていた友人に、その場で自身のスーツを脱いで渡したという逸話も残されています。音楽や美術といった芸術を好み、飯能市で初めてベートーヴェンの第九演奏会を開催したことでも知られますが、ご本人は歌が苦手だったそうです。

長年にわたり地域の政治、行政、経済に深く関わり、飯能市の礎を築いた人物の一人と言えるでしょう。

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※この文章は公開情報をもとに辞書記事として再構成したものです。

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