河原千恵子

河原千恵子

河原千恵子（かわはら ちえこ）は、1962年10月25日生まれの日本の小説家です。東京都文京区で生を受けた彼女は、後に文学の世界へとその才能を開花させることになります。

作家への道のり

河原が物語を作ることの面白さに目覚めたのは、まだ幼稚園に通う頃でした。幼い頃から創作に親しみ、小学生になると、マル・セリス監督の映画『禁じられた遊び』や、アムステルダムの隠れ家で綴られた『アンネの日記』といった作品に深い感銘を受けます。これらの作品との出会いが、彼女の中に「いつか自分も小説家になりたい」という揺るぎない夢を育みました。

中学生、高校生になっても創作への情熱は衰えず、特に青春をテーマにした小説を数多く執筆していました。早稲田大学第一文学部の文芸専攻へと進学し、作家への道を本格的に志しますが、大学時代は必ずしも順調とは言えませんでした。創作活動に苦悩し、思うように筆が進まない時期を過ごします。高校時代に書きためた作品を『文學界新人賞』に応募するも、残念ながら受賞には至りませんでした。

大学を卒業する頃、河原は一度、小説家になるという夢を心の中にしまい込む決断をします。そして社会に出て就職し、結婚、出産といった人生の大きな節目を経験します。子育てに追われる日々の中で、小説とは距離を置くことになります。

再起とデビュー

しかし、文学への思いが完全に消え去ることはありませんでした。子育てが一段落し、自分の時間を持てるようになった頃、「趣味としてでも良いから、もう一度小説を書いてみたい」という気持ちが再び強く湧き上がってきます。この頃、河原は朝日カルチャーセンターで開講されていた小説講座に参加し、作家の松岡弘城氏に師事します。松岡氏のもとで研鑽を積むうちに、創作への情熱は再び燃え上がりました。

そして2009年、集英社が主催する伝統ある文学賞、小説すばる新人賞に「なくしてしまったはずのもの」というタイトルで応募した作品が、見事、第22回の新人賞に選ばれます。この作品は、単行本化される際に『白い花と鳥たちの祈り』と改題され、河原千恵子の記念すべきデビュー作となりました。この第22回小説すばる新人賞は、後にベストセラー作家となる朝井リョウ氏のデビュー作『桐島、部活やめるってよ』との同時受賞であり、大きな話題を呼びました。

受賞の報を受けた際、河原はインタビューなどで、自身の非常に個人的な心情や思いを綴った作品が多くの人の目に触れることになる状況に対して、戸惑いや「すごく困った」と感じるほどの羞恥心があった旨を率直に語っています。

作品活動

デビュー作である長編小説『白い花と鳥たちの祈り』は、受賞翌年の2010年2月に集英社から刊行されました。その後、2017年5月には、同じく集英社より長編小説『セラピールーム』を発表しています。

また、これらの単行本作品に加え、文芸誌『小説すばる』や『紡』を中心に、精力的に短編作品を発表し続けています。単行本には未収録ながら、発表された短編には以下のようなものがあります。

杉子の眼（『小説すばる』2010年5月号）
長谷川の弟（『小説すばる』2010年12月号）
あらののはてに（『紡』2011年5月発売号）
茶色い目（『小説すばる』2011年8月号）
太陽だっていつか死ぬ（『小説すばる』2011年12月号）
シオンの罪（『紡』2012年4月発売号）
フォーマルハウト（『小説すばる』2012年12月号）
交点（『紡』2013年3月発売号）
シオンの恋（『紡』2013年9月発売号）
心いっぱいの声（『小説すばる』2014年10月号）

河原千恵子は、一度は創作の道を離れながらも、内なる情熱を再燃させ、文学賞を受賞して作家デビューを果たしたユニークな経歴を持つ作家です。その作品は、自身の経験や内面世界に深く根差した視点から、読者の心に静かに語りかけます。今後のさらなる活躍が期待されています。

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