河野重男

河野重男（こうの しげお）は、大正15年（1926年）7月10日に生まれ、平成16年（2004年）6月8日に逝去した、日本の教育学を代表する研究者です。特に教育社会学と教育行政学を専門分野とし、その研究活動は日本の教育制度や学校運営の発展に大きな影響を与えました。

宮崎県に生まれた河野氏は、東京大学で高度な学問を修めた後、教育研究の道を歩み始めました。キャリアの初期には国立教育研究所で勤務し、教育に関する基礎的な調査研究に従事しました。1967年にはお茶の水女子大学の教授に就任し、教育学の研究・教育に力を注ぎます。同学では教育学部における中心的な存在となり、多くの後進を育てました。そして、1987年にはお茶の水女子大学の学長に選出され、教育研究機関としての大学の運営と発展にリーダーシップを発揮しました。

1992年に定年退官した後、お茶の水女子大学からは名誉教授の称号が贈られました。退官後もその活動は衰えることなく、東京家政学院大学の学長として再び大学運営に携わりました。学術面においては、日本の教育社会学の発展に貢献し、日本教育社会学会の会長も務めました。また、国の教育政策に関わる重要な諮問機関である中央教育審議会や社会教育審議会の委員としても活躍し、教育行政や社会教育の方向性決定に深く関与しました。

河野氏の研究テーマは多岐にわたり、教育経営、学校運営、学校改革、社会教育、生徒指導、特別活動など、教育をめぐる広範な領域を網羅していました。単著としては、教育経営の理論と実践を探求した『教育経営』や、学校制度の変革について論じた『学校改革の道』などがあります。

また、多くの共同研究や編著にも携わっており、その協調的な研究姿勢がうかがえます。『社会教育事典』や『学校運営の現代化をめぐる問題事例』、『現代教科教育学大系』シリーズ（教科教育の経営、学校と教科外活動）、『講座生徒指導と学校経営』、『特別活動の現代化をめぐる問題事例』といった著作は、当時の教育現場が抱える具体的な課題に応えようとする実践的な視点を反映しています。

さらに、『現代教育講座』の一冊として『現代の学校 学校とは何をするところか』を編著し、学校の役割について深く問い直しました。『戦後教育を語る 教育対話 教育社会学30年』では、教育社会学の視点から戦後日本の教育の歩みを検証。『現代教育の構造と課題』では、現代教育が直面する問題点を分析しました。教育と社会の関係を探る『教育と社会 いかにして人間となるか』は、テレビ大学講座のテキストとしても活用されました。

学校における創造性や生きる力の育成にも強い関心を持ち、『充実した学校の創造 創造的知性を育てる学校生活』、『生きる力を育てる学校』、『生きる力をはぐくむ 21世紀を生きる子ども』、『学校パラダイムの転換 新しい学校の時代』などを共編著として刊行。これらの著作は、新しい時代の学校教育のあり方を探求するものでした。その他にも、『学校教育辞典』や『新教育学大事典』といった大規模な辞典の編纂に携わるなど、日本の教育研究基盤の整備にも貢献しました。

海外の教育動向についても深い知見を持ち、アメリカ、ドイツなどの比較教育に関する重要な文献の翻訳も行いました。アメリカの教育制度を紹介した『アメリカの教育』、比較教育学の古典ともいえるキャンデルやヒルカーの著作の翻訳（『変革期の教育 比較教育学的考察』、『比較教育学』）、学校改革のプロセスを論じたニール・グロスの著作『学校革新への道 教育イノベーションの普及過程』など、海外の研究成果を日本に紹介することにも尽力しました。

河野重男氏は、教育学の研究者、教育機関の管理者、そして教育政策への提言者として、日本の教育の発展に多角的に貢献しました。その幅広い活動と多数の著作は、現代日本の教育を理解する上で貴重な資料となっています。生涯にわたり、教育が個人と社会に与える影響を探求し続け、その成果は今日の教育界にも受け継がれています。

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