治療標的データベース

治療標的データベース（TTD）

概要

治療標的データベース（Therapeutic Target Database、略称: TTD）は、医薬品や医療関連情報を集約した貴重な情報基盤です。このデータベースは、中国の浙江大学に属するInnovative Drug Research and Bioinformatics Group (IDRB)と、シンガポール国立大学のBioinformatics and Drug Design Groupが協力して構築・管理しています。

TTDの主要な目的は、医薬品開発において重要な役割を果たす、既知および現在研究が進められている様々な種類の治療標的（タンパク質や核酸など）に関する情報を提供することです。これには、標的が関与する疾患、関連するシグナル伝達経路の情報、そしてそれらの標的に作用する薬物に関する広範なデータが含まれます。ユーザーは、標的の機能特性、遺伝子・タンパク質配列、三次元構造、リガンドとの結合様式、酵素としての分類、対応する薬物の化学構造、薬物分類、そして臨床開発段階といった多岐にわたる詳細な知識を得ることができます。

TTDは学術研究および産業界双方にとって有用であり、その情報はウェブサイト（http://db.idrblab.net/ttd/）を通じて誰でも自由に、そしてログイン不要でアクセス可能です。

網羅性と統計

TTDは、その網羅性においても特筆すべきデータベースです。最新の統計によれば、現在3,419件に及ぶ治療標的が登録されています。これらの標的は、すでに承認された医薬品の標的（成功: 461件）、臨床試験段階の薬物が対象とする標的（臨床試験: 1,191件）、特許保護されている標的（特許: 207件）、そしてまだ研究段階にある標的（研究標的: 1,560件）に分類されます。また、登録されている薬物の総数は37,316件に上り、これらも承認薬（2,649件）、臨床試験薬（9,465件）、特許薬（5,059件）、実験薬（20,143件）と詳細に分類されています。

これらの標的と薬物は、それぞれ多様な生化学的クラスおよび治療クラスを網羅しています。具体的には、標的は583種類のタンパク質生化学クラスを、薬物は958種類の薬物治療クラスをカバーしています。疾患分類においては、世界保健機関（WHO）が定める国際疾病分類（ICD-11）の最新版コードが採用されており、これにより疾患やその分類が明確に定義され、情報の検索や解析が容易になっています。

ターゲットバリデーション支援

新規の治療標的候補が実際に医薬品開発の対象として適切であるかを確認するプロセスは「ターゲットバリデーション」と呼ばれます。この検証では通常、候補となる標的が疾患に関連する細胞や組織で実際に機能していること、そして適切な効力を持つ薬物候補によって直接的にその機能が調節可能であること、さらに標的の調節が細胞レベルや動物モデルにおいて疾患の症状や病態を改善することを示す必要があります。

TTDでは、この重要なターゲットバリデーションを支援するために、実験的に得られた様々なデータを収集・提供しています。具体的には以下の3種類のデータが含まれます。

一次標的または複数の標的に対する薬物の実験的な効力データ。
細胞株、ex-vivoモデル、in-vivoモデルなど、疾患モデルにおける薬物の明確な効力や効果に関するデータ。
標的遺伝子のノックアウトやノックダウン、RNA干渉、遺伝子導入、あるいは抗体やアンチセンス核酸による処理を施したin-vivoモデルで観察された効果に関するデータ。

標的の変異と発現プロファイル

治療標的を対象とした医薬品の発見、研究、および臨床でのモニタリングは、集中的な研究活動が続けられている分野です。これらの活動は、標的の遺伝的な特徴、タンパク質としての状態（プロテオミクス）、他の分子との相互作用、その他の関連する側面に関する情報に容易にアクセスできることによって、大きく促進されます。TTDでは、こうした研究に役立つ関連データを提供しています。

提供されるデータの例として、以下のものが挙げられます。

合計83種類の標的および104種類の標的または薬物によって調節される遺伝子に見られる、約2,000件の薬物耐性に関連する変異情報。
疾患に関連する組織とそうでない組織における、758種類の標的の差次的発現プロファイル。これにより、疾患特異的な標的の発現状況を把握できます。
1,764種類の薬物と1,008種類の標的の組み合わせ、さらには664種類のマルチターゲット薬物と1,604種類の標的の組み合わせに関するデータ。これは、薬物がどの標的に作用するか、あるいは一つの標的に複数の薬物が作用するかといった関係性を示します。

臨床試験段階および特許保護された標的

現在、タンパク質や核酸といった様々な分子が治療標的としての可能性を秘めているとして研究されています。これらの候補の中には、既に承認された医薬品の標的となっているもの、臨床試験中の薬物がターゲットとしているもの、あるいは特許によって保護されている薬物に関連するものなど、数百に及ぶ事例が存在します。こうした標的、そして特に臨床で使用されている薬、治験薬、特許取得済みの薬が対象とする標的に関する詳細な知識は、新たな医薬品を創出する上で非常に価値があります。

TTDの最新版では、これらの情報が網羅されており、具体的には以下のようなデータが提供されています。

臨床試験段階にある薬物について、その標的、化学構造、および実験的に測定された活性値。
特許によって保護されている薬物について、その標的、化学構造、および実験的に測定された活性値。

標的制御因子とシグナル伝達経路

治療標的に関する深い理解や、初期段階の薬物候補に関する情報は、より効率的で成功率の高い創薬プロセスに貢献します。特に、標的の機能を制御する因子（例えば、その標的を制御するマイクロRNAや転写因子）や、標的が関与する細胞内のシグナル伝達経路に関するデータは、その標的が医薬品として「創薬可能」であるかを評価したり、システム薬理学的な解析を行ったり、新しい研究トレンドを特定したり、分子レベルでの詳細な理解を深めたり、あるいは新たな創薬ツールの開発を進めたりする研究を促進する上で非常に有用です。

TTDは、このような重要な情報を提供するため、いくつかの関連データベースへのリンクを含めつつ、標的制御因子や経路に関する情報を提供しています。

提供される情報には、以下のようなものが含まれます。

標的の機能を調節するマイクロRNAや転写因子、さらには標的と物理的に相互作用するタンパク質に関するデータ。
複数の著名な経路データベースを参照しつつ提供される、網羅的な標的とその関連経路の組み合わせ（ペア）に関する情報。
* これらの経路データベースのエントリと相互にリンクされた、複数の標的や薬物への簡便なアクセス機能。これにより、関連情報の横断的な参照が容易になります。

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