泉のバテシバ

『泉のバテシバ』（独: Bathseba am Springbrunnen、英: Bathsheba at the Fountain）は、フランドルのバロック期を代表する画家ピーテル・パウル・ルーベンスが、1635年頃にオーク板に油彩で制作した絵画です。この作品は、ルーベンスの2番目の妻であるエレーヌ・フールマンからインスピレーションを得たとされています。ルーベンスの遺産目録に記載されており、現在はドイツのドレスデンにあるアルテ・マイスター絵画館に所蔵されています。

この絵画の中心に描かれているのは、旧約聖書に登場するバテシバです。バテシバの水浴びは、スザンナの水浴びと並んで、ルネサンス期以降、多くの画家によって描かれてきました。これらの主題は、美しい裸婦像を描くための格好の題材でした。

バテシバは、もともとウリヤという男性の妻でした。旧約聖書のサムエル記下巻によれば、ダビデ王は夕暮れ時、宮殿の屋上から水浴びをする美しいバテシバを目撃し、恋に落ちます。ダビデはその後、彼女を身ごもらせ、夫のウリヤを戦地に送り込み、戦死させます。

この絵画では、バテシバがダビデ王からの手紙を受け取っている場面が描かれています。バテシバは、髪を梳かす侍女を伴っており、足元には犬がいます。彼女は遠くを見つめ、微笑みを浮かべています。ダビデの手紙を届ける使者は聖書には記述されていませんが、17世紀のオランダ絵画には使者が登場する作例が多く見られます。しかし、この絵画のように黒人の少年が使者として登場するのは珍しいです。これは、異国情緒と色彩的な効果を狙ったものだと考えられます。

ルーベンスは、官能的な美しさを追求する一方で、聖書の物語をドラマチックに表現しました。バテシバの表情や仕草、そして周囲の人物や動物の配置によって、物語の緊迫感と官能的な雰囲気を巧みに描き出しています。また、色彩豊かな描写は、バロック絵画の特徴をよく表しています。

この作品は、ルーベンスの卓越した技量と、聖書を題材にした作品への深い理解を示す好例と言えるでしょう。現在でも、多くの人々を魅了し続けている傑作です。

参考文献

山崎正和・高橋裕子『カンヴァス世界の大画家13 ルーベンス』、中央公論社、1982年刊行 ISBN 978-4-12-401903-2

外部リンク

[アルテ・マイスター絵画館]]公式サイト、ピーテル・パウル・ルーベンス『泉のバテシバ』 （[ドイツ語）と（英語）

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