泉澄一

泉 澄一（いずみ ちょういち）氏は、1932年10月12日にこの世に生を受け、2015年3月19日にその生涯を閉じた日本の歴史学者です。専門は日本中近世史であり、特に中世・近世における社会経済史、そして対馬藩を巡る対外関係史の研究において顕著な業績を残しました。関西大学名誉教授として、長年にわたり教育・研究活動に従事し、多くの学生や研究者に影響を与えました。

泉氏の学問への道のりは、教育現場から始まりました。1956年に大阪学芸大学を卒業後、小学校や高校で教鞭を執り、教育者としての経験を積みました。その傍ら、歴史学の研究を深めたいという強い思いから、1966年に関西大学大学院文学研究科日本史学専攻の修士課程に進学し、専門的な知識と研究手法を習得しました。大学院時代には、横田健一氏、有坂隆道氏、薗田香融氏といった、当時の日本史学界を牽引する高名な研究者たちの指導を仰ぎ、自らの研究テーマを確立していきました。

大学院修了後も研究を続け、1979年に関西大学文学部史学・地理学科に教員として着任しました。以後、大学という場で教育と研究の両輪を精力的に進めることになります。泉氏の研究は多岐にわたりますが、主要なテーマとして、中世日本の商業都市、特に堺や博多の歴史的性格とその発展過程に関するものがあります。代表的な著作としては、『堺と博多―戦国の豪商』（1976年）、『堺―中世自由都市』（1981年）があり、これらの都市が持つ自由な気風や経済的実力に光を当てました。

また、泉氏は日朝交流史にも深い関心を寄せ、陶磁器の歴史に関する研究も行いました。朝鮮半島の釜山窯や、対馬における近世の陶窯史に関する実証的な研究は、『釜山窯の史的研究』（1986年）、『近世対馬陶窯史の研究』（1991年）として結実しています。これらの研究は、モノと人との交流を通じて、当時の国際関係や文化交流の実態を解明する試みでした。

泉氏の研究活動におけるもう一つの大きな柱が、対馬藩と江戸時代中期の代表的な儒学者である雨森芳洲に関するものです。対馬藩は、江戸時代の鎖国体制下において、朝鮮との窓口という極めて重要な役割を担っていました。泉氏は、対馬藩の政治構造、外交の実務、そして日朝間の「誠信の交わり」を説いた雨森芳洲の思想や事績について、詳細な史料研究に基づいた研究を進めました。その成果は、『対馬藩藩儒 雨森芳洲の基礎的研究』（1997年）、『対馬藩の研究』（2002年）といった単著として発表されています。

さらに、泉氏は研究基盤となる史料の整備・公開にも多大な貢献をしました。特に、雨森芳洲の関連史料を集成した『縞紵風雅集 雨森芳洲全書一』（1979年）、『芳洲文書 雨森芳洲全書二』（1980年）、『芳洲外交関係資料集 雨森芳洲全書三　書翰』（1982年）、『続芳洲外交関係資料集 雨森芳洲全書四』（1984年）といった「雨森芳洲全書」シリーズ（中村幸彦氏、水田紀久氏との共編）の編纂に中心的に携わりました。また、対馬藩の根本史料である『宗氏実録』の刊行にも関与し、『宗氏実録-対馬藩史料（1）』（1981年）、『宗氏実録―対馬藩史料（2）』（1988年）を清文堂出版から世に送り出しました。これらの史料集の刊行は、今後の日朝交流史や対馬藩研究の発展に不可欠な基盤を提供するものであり、泉氏の学界に対する貢献の大きさを示しています。

関西大学名誉教授として、泉氏はその豊富な知識と経験を次世代の研究者たちに伝え続けました。中近世史、特に商業史や対外交流史の分野において、実証的な研究姿勢を重視し、多角的な視点から歴史事象を読み解くことの重要性を示しました。その学術的遺産は、多くの著作や編纂史料、そして彼に学んだ門下生たちによって、今もなお受け継がれています。

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