泣きながら恋をして

「泣きながら恋をして」（なきながらこいをして）は、日本の著名なグループ・サウンズバンドであるジャッキー吉川とブルー・コメッツが、1970年 7月10日に発表した通算17枚目のシングルレコードのA面に収められた楽曲である。この時期、グループは従来のグループ・サウンズ然としたサウンドから、より当時の日本の歌謡曲市場に寄り添う方向へと音楽性を変化させており、本楽曲もその流れの中で制作された一曲と位置づけられる。

楽曲の制作布陣は以下の通りである。

- 作詞: なかにし礼
- 作曲: 井上忠夫
- 編曲: 森岡賢一郎

作詞は、情感豊かな詞世界で多くのヒット曲を生み出したなかにし礼が担当。作曲は、グループのバンマスであるジャッキー吉川を除くメンバーの中では中心的な存在であり、メインボーカルも務めた井上忠夫（愛称タロー）が手掛けた。編曲は、日本歌謡界における名アレンジャーの一人である森岡賢一郎が担当しており、当時の音楽シーンを代表するクリエイターたちが集結している。

楽曲の音楽的な特徴として挙げられるのは、まず前作「それはキッスで始まった」から継続された歌謡曲テイストである。これは、当時の日本の音楽市場におけるシングルの主流に合わせたものであり、グループのサウンドの変化を示す明確な兆候であった。加えて、本楽曲は特に音楽構成においてラテン音楽のエッセンスを大胆に取り入れている点が特筆される。情熱的かつリズミカルなラテンのリズムパターンや、特定の楽器の使い方が、楽曲全体に異国情緒と躍動感を与えている。

そして、本楽曲の最もユニークで耳を引く特徴の一つが、サビの部分における井上忠夫自身によるコンガの演奏である。通常、バンドサウンドの中心ではないパーカッション楽器であるコンガを、作曲者でありメインボーカルも担当するメンバーが演奏するという形は珍しく、楽曲に力強いアクセントと、ラテンテイストを一層強調する効果をもたらしている。このコンガの響きが、「泣きながら恋をする」という歌詞が描く切なさの中にも、どこか情熱的な響きを添えている。

商業的な観点から見ると、本シングルは必ずしも大きな成功を収めたとは言えなかった。日本の主要な音楽チャートであるオリコンチャートにおいては、最高で41位という順位にとどまった。これは、かつてミリオンセラーを記録するなど一世を風靡したグループ・サウンズ時代の勢いからは大きく後退した結果であり、また、前作「それはキッスで始まった」のチャート成績と比較しても、さらに順位を落とす形となった。この時期のチャート成績は、グループ・サウンズという音楽ジャンル自体の人気が収束に向かっていたことや、ジャッキー吉川とブルー・コメッツが音楽性を模索していた過渡期にあったことを反映しているとも考えられる。

本シングルのカップリング曲（B面）には、「悲しき玩具」（かなしきがんぐ）が収録されている。こちらもA面と同様になかにし礼が作詞、森岡賢一郎が編曲を手掛けているが、作曲はグループのギタリストである三原綱木が担当している。この「悲しき玩具」の音楽的な特徴として、演奏にスティール・ギターが効果的に使用されている点が挙げられる。スティール・ギターの持つ、どこか物悲しく、しかし叙情的な音色が、楽曲のタイトルや歌詞に込められた世界観と見事に調和し、聴き手に深い印象を残す楽曲となっている。

全体として、シングル「泣きながら恋をして」は、ジャッキー吉川とブルー・コメッツが1970年代の音楽シーンの中で、歌謡曲とラテン音楽を融合させるなど、新しいサウンドを追求した試みを示す一例である。商業的には全盛期のような成功は得られなかったものの、その音楽的な挑戦や、メンバーによる作曲、個性的な楽器の使用など、当時のグループの音楽探求の姿勢が感じ取れる興味深い作品と言えるだろう。

関連項目

- 1970年の音楽

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