泣く女

パブロ・ピカソ「泣く女」：感情を色彩で表現した傑作

パブロ・ピカソが1937年に描いた「泣く女」は、彼の愛人であり写真家でもあったドラ・マール（アンリエット・テオドラ・マルコヴィッチ）をモデルにした絵画作品です。ドラ・マールはピカソのミューズとして、「ドラ・マールの肖像」など多くの作品に登場しますが、中でも「泣く女」は最もよく知られています。

テート・モダン所蔵の作品が特に有名ですが、ビクトリア国立美術館などにも同名の作品が存在します。これらの作品は、ピカソが追求した感情表現の深さと、彼自身の内面世界を映し出す鏡として、美術史において重要な位置を占めています。

多様なバリエーションと作風

「泣く女」をモチーフとした作品は、100種類以上のバリエーションが存在すると言われています。その作風は非常に多様で、目玉が飛び出るほど激しく泣く女性、嘆き悲しみに暮れる女性、ハンカチを食いしばって涙をこらえる女性、そして空に向かって叫ぶかのように泣き叫ぶ女性など、様々な感情の表出が見られます。

これらの作品は、「青」「黒」「黄」「赤」「緑」「橙」など、鮮やかな色彩で彩られているのが特徴です。鮮やかな色彩は、感情の激しさをより一層際立たせています。また、スペイン内戦を描いたピカソの代表作『ゲルニカ』と関連の強い一部の作品は、モノクロで描かれています。モノクロで描くことで、悲しみや苦しみがより直接的に伝わってきます。

「泣く女」は、ピカソが『ゲルニカ』を描いた後に制作された作品としても珍しいとされています。戦争の悲劇を表現した『ゲルニカ』と、個人的な感情を表現した「泣く女」。この二つの作品群は、ピカソの芸術における両輪と言えるでしょう。

『ゲルニカ』に登場する「泣く女」

ピカソの代表作『ゲルニカ』にも、「泣く女」のモチーフが登場しています。作品の左下部分に描かれた、死んだ子供を抱きかかえて嘆き悲しむ母親の姿は、「泣く女」の原型とも言えるでしょう。子供は白目をむき、手足をだらりと垂らしており、母親は悲痛な叫び声を上げているようです。口から飛び出すように描かれた舌は、彼女の絶望を象徴しています。

「ゲルニカのための習作」として描かれた「泣く女」は、飛び出した目、鏃（やじり）のような形の鼻孔、そして大きく尖った舌が特徴的です。これらの要素は、彼女の苦しみと悲しみを強烈に表現しています。

「泣く女」は、ピカソの感情表現の追求と、彼自身の内面世界を深く探求した作品と言えるでしょう。その強烈なイメージは、時代を超えて多くの人々の心を捉え続けています。

泣く女（英語・テート・ギャラリーによる解説）

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