流れ者 (岡林信康の曲)

フォークソング歌手、岡林信康が社会の現実と向き合い、そこから生み出した初期の代表作に、『流れ者』と『チューリップのアップリケ』がある。

これらの楽曲が生まれた背景には、岡林自身の思想と体験が深く関わっている。同志社大学神学部での学びを中断した彼は、自らの足元である近江八幡の現実、特に部落問題（同和問題）に深く向き合うことの必要性を痛感する。そして、その思いを胸に、琵琶湖岸の干拓地で行われていた住宅建設の仕事に従事することを決意した。

日雇い労働の現場で経験を積む中で、彼は社会の様々な矛盾を目の当たりにする。そんな日々の中で、高石友也の音楽に触れ、強い影響を受けた岡林は、手に入れた質流れのギターで歌を作り、弾き語りを始めたという。地域での集会、具体的には部落解放同盟滋賀県連合会坂本支部の新年会で自作の歌を披露すると、聴衆から即座に支持が集まった。この反響によりフォークソングへの確信を深め、精力的に制作活動を行う中で、後に彼の代表曲となるこれらの楽曲が誕生したのである。

流れ者

『流れ者』は「飯場ブルース」という副題を持つ楽曲である。この歌は、共に汗を流していた年上の同僚が語った「俺は一生流れ者さ、飯場を転々とするだけだ」という言葉が、着想の源となったという。完成した一番の歌詞を仲間たちに聞かせた際、彼らからの示唆や言葉を取り入れ、二番、三番へと歌詞を発展させ、楽曲は完成に至った。当初は「俺は一生流れ者」という題名だったが、後にシンプルに『流れ者』と改められた。

岡林自身はこの歌を「刹那的」と評しつつも、「飯場の労働者をこのような刹那的な状況に追いやる社会のあり方こそ問題ではないか」と、その歌に込められた社会批判の視点を語っている。

チューリップのアップリケ

『チューリップのアップリケ』もまた、『流れ者』と同様に、住宅建設現場での労働体験やそこで出会った人々との交流から生まれた楽曲である。この歌は、家庭を失った未解放部落の子供が、母親への切ない思いを募らせる心情を描いている。

作詞・作曲の経緯については複数の説がある。当時の活動拠点に出入りしていたある少女の作文が着想源になったという説。また別の記述によれば、知的障害児施設でのボランティア活動中、担当教師から提供された、子供が断片的に書き留めたような文章から言葉を拾い上げ、それに知人から聞いた話を加えて自身の創作として楽曲を完成させたとされている。

この楽曲は、同じく部落問題を扱った『手紙』とともに、森達也氏がドキュメンタリー番組『放送禁止歌～唄っているのは誰？規制するのは誰？～』を制作した際に、『超Aランク放送禁止歌』として言及されたことで知られる。番組では、本楽曲を取り上げようと岡林氏本人に接触を試みたものの、氏に手紙は届けられたものの、直接的な返答は得られなかったというエピソードが紹介されている。

収録曲情報

これらの楽曲は、1969年に発表されたシングルに収録された。

全作曲: 岡林信康
全編曲: 西岡たかし

SIDE A: 流れ者 – (4:22)
作詞: 岡林信康・沢田福満
SIDE B: チューリップのアップリケ – (4:31)
作詞: 岡林信康・大谷あや子

これらの楽曲は、1969年という時代背景の中で、部落問題や社会の底辺で生きる人々の苦悩に光を当てた重要な作品として、今なお語り継がれている。

もう一度検索