流行感冒

志賀直哉「流行感冒」：パンデミック下の人間模様

志賀直哉の小説「流行感冒」は、1919年に発表された作品です。当時世界的に流行したスペイン風邪（インフルエンザ）を題材としており、2019年以降の新型コロナウイルス感染症の流行（コロナ禍）と多くの共通点を持つことで、現代において再び注目を集めています。

あらすじ

物語の舞台は、千葉県我孫子。小説家の「私」は、妻と娘の左枝子、そして2人の女中「石」と「きみ」と共に暮らしています。「私」は、以前に子供を病気で亡くした経験から、娘の健康に過敏になっています。

大正7年（1918年）の秋、スペイン風邪が猛威を振るい、感染者が増加の一途をたどります。小学校の運動会で感染者が多数出たという話も耳に入ってきます。そんな中、毎年恒例の青年会主催の芝居興行に、女中の石が参加したのではないかという疑念が浮上します。石は、日頃から少し愚鈍に見えるところがあり、軽率な行動も多い女中でした。

「私」は石ならあり得ることだと思い、彼女を問い詰めますが、石は否定します。しかし、実際には芝居に行ったことが判明し、「私」は石に暇を出そうと考えます。しかし、周囲の勧めもあり、思いとどまります。

その後、「私」も家に出入りする植木屋を通じて感染してしまいます。そんな中、家族の中で唯一感染を免れた石が献身的に働く姿を見て、「私」は石を解雇しようとしたことを反省します。その後、石に縁談が持ち上がり、結婚するまで「私」の家で奉公することになります。

作品の評価

歴史家の磯田道史は、著書『感染症の日本史』でこの作品を取り上げ、「読者は、この小説でスペイン風邪に襲われたときの家内のありさまを知り、家族などにどんな注意を与えるべきかなど、実際の感染予防にも役立てることが出来たのではないでしょうか」と評価しています。

テレビドラマ化

2021年には、NHK BS4K、NHK BSプレミアム、NHK総合テレビで、本木雅弘主演でテレビドラマ化されました。脚本は長田育恵、演出は柳川強が担当しました。

登場人物

私: 主人公の小説家（演：本木雅弘）
春子: 主人公の妻（演：安藤サクラ）
左枝子: 主人公と春子の娘（演：志水心音）
石: 女中（演：古川琴音）
きみ: 女中（演：松田るか）
寅吉: （演：石橋蓮司）
* 根岸: （演：仲野太賀）

まとめ

「流行感冒」は、パンデミックという非常時における人々の心理や行動をリアルに描いた作品です。感染への不安、差別、生活の変化など、現代のコロナ禍にも通じるテーマが盛り込まれており、時代を超えて私たちに問いかけます。この作品を読むことで、私たちは過去のパンデミックから学び、現代の困難を乗り越えるためのヒントを得ることができるでしょう。

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