浅側頭動脈前頭枝

浅側頭動脈前頭枝とは

浅側頭動脈前頭枝（せんそくとうどうみゃくぜんとうし、英語名 Superficial temporal artery, frontal branch）は、ヒトの頭頸部に位置する動脈の一つです。その名称が示す通り、浅側頭動脈という比較的大きな動脈から分岐する血管であり、頭部の前方、具体的には前頭部へと向かって走行します。この血管は、前頭部の特定の領域に血液を供給するという重要な役割を担っています。

解剖学的特徴

位置と走行

浅側頭動脈前頭枝は、浅側頭動脈の終枝の一つとして分岐した後、特徴的に曲がりくねった経路をたどりながら上前方へと進みます。その目的地は、額の骨である前頭骨の領域です。頭部の表面に近い部分を走行しており、触れることができる場合もあります。この独特な走行パターンは、浅側頭動脈前頭枝を識別する上での一つの特徴となります。

栄養供給

浅側頭動脈前頭枝の主要な機能は、その走行範囲にある組織に栄養豊富な酸素化血液を供給することです。具体的には、前頭部の筋肉（例えば、前頭筋など）や、頭部の外側を覆う皮膚（外皮）、そして頭蓋骨の表面を覆う結合組織の膜である頭蓋骨膜などに対して、必要な血液を届けます。これらの組織の正常な機能維持には、浅側頭動脈前頭枝からの安定した血流が不可欠です。

他の血管との吻合

浅側頭動脈前頭枝は単独で存在するのではなく、前頭部の他の血管と密接なネットワークを形成しています。特に、眼窩上動脈（がんかじょうどうみゃく）や前頭動脈（ぜんとうどうみゃく）といった近隣の動脈と吻合（ふんごう、anastomosis）します。吻合とは、血管同士が合流・接続することを指し、これにより血流の迂回路（側副血行路）が形成されたり、特定の領域への血流供給が強化されたりします。この血管ネットワークの存在は、頭部の血流供給システムの安定性に寄与しています。

臨床的意義

脳血行再建術への応用

浅側頭動脈前頭枝は、その解剖学的な特徴から、特定の疾患に対する外科的治療において重要な役割を果たすことがあります。特に、脳への血流が不足している状態を改善するための「脳血行再建術」と呼ばれる手術で活用されることがあります。これは、脳の血流を確保するためのバイパス手術の一種です。

STA-MCA吻合術

浅側頭動脈前頭枝、あるいは浅側頭動脈のもう一方の主要な枝である浅側頭動脈頭頂枝（せんそくとうどうみゃくとうちょうし）、またはその両方の血管は、特定の脳血管障害に対する治療法として知られる外科手術に利用されます。この手術は、これらの血管を脳の血管、具体的には中大脳動脈（ちゅうだいとうみゃく）の皮質枝（ひしつし）と呼ばれる枝に外科的に接続するものです。この手技は、浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術（Superficial Temporal Artery to Middle Cerebral Artery anastomosis）、略してSTA-MCA吻合術として知られています。

STA-MCA吻合術は、脳の主要な血管が狭窄したり閉塞したりして、脳組織への血液供給が危険なほど不足している状態を改善することを目的として行われます。この手術の適応となる疾患としては、特に進行性の脳血管障害である「もやもや病」や、アテローム硬化などによって引き起こされる「脳主幹動脈閉塞」などが挙げられます。これらの疾患では、既存の血管だけでは脳が必要とする血液量を供給できないため、浅側頭動脈の枝をバイパスとして利用し、脳の表面にある血管に新たな血流ルートを作り出すことで、脳組織の虚血を防ぎ、機能障害の進行を抑えることを目指します。浅側頭動脈前頭枝は、このバイパス手術において、脳血管と吻合するためのドナー血管（血液の供給源となる血管）として選択される候補の一つとなります。

このように、浅側頭動脈前頭枝は、単なる栄養供給血管としてだけでなく、脳の血流を回復させるための高度な外科手術にも利用される、解剖学的にも臨床的にも重要な血管と言えます。

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