浅田浩二

浅田 浩二（あさだ こうじ）氏は、1933年（昭和8年）12月6日に京都府で生まれ、2013年（平成25年）12月15日に80歳で逝去した日本の農芸化学者です。京都大学名誉教授の称号を持ち、逝去日付で従四位に叙されました。

戦後の食糧難を少年時代に経験したことが、農学の道を志す原点となりました。大学で農芸化学を専攻し、その研究活動は、生物における酸素の役割、特に「活性酸素」の働きとその制御機構の解明に多大な貢献をもたらしました。

研究業績

浅田氏の最も画期的な業績の一つは、「活性酸素」という概念を世界に先駆けて提唱し、その定義を確立したことです。1960年代後半頃、生物体内で生成される反応性の高い酸素分子種（スーパーオキシドアニオンラジカル、過酸化水素、ヒドロキシルラジカル、一重項酸素など）が、生体に様々な傷害を引き起こす可能性を持つことを示し、これらをまとめて「活性酸素」と呼ぶことを提案しました。さらに、好気性生物が生存するためには、活性酸素の生成とそれを無毒化する消去システムのバランスが極めて重要であることを提唱し、フリーラジカル生物学や酸化ストレス研究の基盤を築きました。

特に植物を対象とした研究においては、光合成が行われる葉緑体に着目し、そこで発生する活性酸素の詳しい生成経路や、それを分解・無毒化するペルオキシダーゼやスーパーオキシドディスムターゼといった酵素系の詳細なメカニズムを明らかにしました。これらの研究を通じて、活性酸素が植物が光ストレスや酸化ストレスなどの環境要因にさらされた際にどのように影響し、植物がそれに耐えるための防御機構がどのように機能しているのかを解明しました。これは、植物の環境ストレス耐性に関する研究に新たな視点をもたらし、同時に、地球上の生態系維持に不可欠な光合成の仕組みの理解を深める上でも重要な成果となりました。

経歴

浅田氏は、1956年に京都大学農学部農芸化学科を卒業後、同大学院農学研究科修士課程を修了し、1963年には農学博士号を取得しました。その後、京都大学食糧科学研究所で助手、講師、助教授、教授を歴任し、長年にわたり教育・研究活動に従事しました。この間、1988年から1995年にはドイツのヴュルツブルク大学客員教授、1997年からはオーストラリア国立大学非常勤客員講師を務めるなど、国際的な研究交流も積極的に行いました。京都大学退官後は、1997年から2006年まで福山大学生命工学部教授として後進の指導にあたりました。また、日本植物生理学会サイエンスアドバイザーや岡山県生物学総合研究所研究アドバイザーなども務めました。

受賞

浅田氏の功績は国内外で高く評価され、多くの賞を受賞しています。
1974年：日本農芸化学会 農芸化学奨励賞
1993年：日本農芸化学会賞
1993年：フンボルト財団 フンボルト研究賞（ドイツ）
1997年：日本植物生理学会 論文賞（共同受賞）
1997年：紫綬褒章
1998年：SFRR Japan（日本フリーラジカル学会）学術奨励賞
1998年：Highly Cited Researchers in Plant and Animal Science (Institute for Scientific Information, USA)
2003年：マテリアルライフ学会 総説賞
2008年：みどりの学術賞
2009年：瑞宝中綬章
2009年：日本植物生理学会 功績賞

主な著作・論文

多数の著書や学術論文を発表し、研究成果を広く発信しました。
『活性酸素―生物での生成・消去・作用の分子機構』 (1989)
『活性酸素測定マニュアル』（共著）(1992)
『NOとスーパーオキシド―臓器特性と分子病態』（共同編集）(1996)
『光合成事典』（編集）(2003)
葉緑体における活性酸素生成・消去機構に関する一連の主要論文

所属学会

日本植物生理学会会長（1998-1999年）など、多くの学会で要職を務めました。
日本植物生理学会
日本生化学会
日本農芸化学会
日本植物学会
日本過酸化脂質・フリーラジカル学会
Society for Free Radical Research
American Society of Plant Biologists
International Society of Photosynthesis Research

浅田浩二氏は、活性酸素研究の黎明期からその中心的な役割を担い、農芸化学、植物生理学、生化学など幅広い分野の発展に大きく貢献しました。その研究成果は、現在も多くの研究者に引き継がれています。

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