浮世根問

浮世根問（うきよねどい）

古典落語、特に上方落語の演目として知られる『浮世根問』は、世間知らずでありながら何でも知っているかのように振る舞う人物の滑稽さを描いた噺です。この演目には、『無学者』や『無学者論』といった別名もあります。

成立と背景

この噺の原型は、江戸時代の安永5年（1776年）に刊行された笑話集『鳥の町』に収められた「根問」という一編にあるとされています。同様に知ったかぶりをテーマとする類話として、『薬缶』が挙げられます。これらの噺は、当時の庶民の間で楽しまれた、知恵や知識をひけらかそうとする人々を風刺する笑いの一形態であったと言えるでしょう。

主な演者

『浮世根問』は多くの噺家によって演じられてきましたが、特に名演を残した人物としては、昭和を代表する落語家である4代目柳家小さんや、その嫡男であり名人として誉れ高かった5代目柳家小さんが挙げられます。彼らの高座を通じて、この噺は広く知られることとなりました。

あらすじ

物語は、『薬缶』と同様に、知ったかぶりをするご隠居を、一人の若者、八五郎（あるいは単に若い衆として描かれることも）が問い詰める形で進みます。八五郎はご隠居の知識のいい加減さを暴こうと、次々と意地悪な質問を浴びせます。

最初の問いは、結婚にまつわる言葉について。「嫁入り」という言葉は、嫁が家に入ってくることを指すのだから正しいのだろうか、いや、娘が実家を出て行くことを考えれば「娘入り」と呼ぶべきではないか、などと、言葉の表す意味と現実の行動との乖離を突きます。ご隠居は、たじたじとしながらも知ったかぶりで場を取り繕おうとします。

質問はやがて、慶事の象徴とされる鶴や亀といった生き物の話題へと移ります。八五郎は、縁起物として尊ばれるこれらの動物が、もし死んだら一体どこへ行くのだろうか、とご隠居に尋ねます。ご隠居は、さも当然という顔で「極楽へ行くのだ」と答えます。しかし、八五郎はさらに問い詰めます。「では、その極楽というのは一体どこにあるのですか？」。ご隠居は答えに窮しつつも、最終的には自分の家にある仏壇を指差して、「極楽はここにあるのだ」と強弁します。

ここで八五郎は、話を鶴亀に戻します。「なるほど、極楽がここにあるというのなら、鶴や亀も死んだら仏になって、ここ（仏壇）へ来るのですか？」と畳みかけます。ご隠居は、動物が仏になることはできない、と答えます。「いや、鳥や畜生は仏にはなれんのだ」。八五郎はさらに食い下がります。「では、仏にもなれない鶴や亀は、死んだ後どうやってここへ来るというのですか？」。

追い詰められたご隠居が、最後にひねり出した答えが、この噺のサゲとなります。それは、かつて仏壇に供えるロウソク立ての意匠として、鶴や亀をかたどったものがよく見られたことを踏まえたものです。

「ろうそく立てになる」

現代における上演

この噺のサゲは、前述の通り仏壇の鶴亀のロウソク立てという、現代ではあまり馴染みのない風習に基づいています。そのため、若い世代の観客にはサゲの意味が通じにくく、滑稽味が伝わりにくい場合があります。このため、現代においてこの『浮世根問』を演じる噺家の中には、サゲに至る前の、ご隠居が極楽の場所について強弁するあたりで噺を切り上げる、あるいはサゲを現代風にアレンジするといった工夫を凝らす場合も多く見られます。

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