海上配備Xバンドレーダー

海上配備Xバンドレーダー(SBX)は、アメリカ合衆国が推進するミサイル防衛構想において重要な役割を担う洋上レーダーシステムです。その主な目的は、アメリカ本土に向けて発射される可能性のある弾道ミサイルを、広大な海域から早期に捉え、その軌道や脅威度を精密に評価することにあります。この情報は、後続の迎撃システムによる対応判断に不可欠な基盤となります。

SBXの運用は、アメリカミサイル防衛局によって行われています。船体は、もともとロシアが建造した石油掘削リグを改修したものであり、アメリカ軍が運用する装備としては珍しい出自を持ちます。巨大なレドーム内部には、高性能なXバンドフェーズドアレイレーダー本体に加え、管制システムや電力を供給する発電設備などが集約されています。

船体自体は全長116メートル、全幅73メートル、排水量約5万トンという巨大な構造物ですが、自走航行能力も備えています。ただし、低速であるため、遠距離の移動が必要な際は、重量物運搬用の大型船舶を利用して輸送されます。

SBXに搭載されているレーダーは、その名の通りXバンドと呼ばれる高い周波数帯を使用します。この周波数帯は波長が短く、レーダー波を細かく絞り込むことができるため、非常に高い解像度での観測が可能です。これにより、特に小型化された弾道ミサイル弾頭などを精密に識別・追尾する能力に優れています。レーダーの送信出力はメガワット級に達し、その探知距離は推定で5,000キロメートルにも及ぶとされています。この長距離探知能力により、敵対的なミサイルが目標に到達するよりはるか手前の段階で捕捉することが可能となります。

主な配備地域は、極東地域からの弾道ミサイル脅威を警戒するため、アラスカ沖合の北部太平洋です。母港は、アリューシャン列島に位置するアダック島が指定されています。この戦略的な位置は、アジア方面からのミサイル軌道を監視する上で非常に有効です。

SBXは、主契約者であるボーイング社の指揮のもと開発が進められ、レーダーシステム自体はレイセオン社が担当して開発・製造を行いました。船体は2005年テキサス州で建造され、初期の試験はメキシコ湾で行われました。その後、2006年には大型の艀に載せられ、南米のホーン岬を迂回する形で太平洋へと輸送されました。

2007年にはミサイル弾頭の探知試験に成功し、その後も弾道ミサイル迎撃実験に複数回参加するなど、その実用性が検証されてきました。近年では、北朝鮮のミサイル開発・発射の動きに対応するため、実任務に投入される機会も増えています。例えば、2012年4月には北朝鮮のミサイル発射予告を受け、ハワイから太平洋上に緊急展開したことが報じられています。また、2016年9月末から約1ヶ月間には、朝鮮半島沖合で北朝鮮の弾道ミサイル活動を継続的に監視していたことが確認されています。

SBXはその巨大さ、独特な形状、そして戦略的な役割から、しばしば注目を集める存在です。高性能レーダーによる長距離・高精度探知能力は、アメリカのミサイル防衛戦略における早期警戒能力の中核を担っています。

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