海老屋總本舗

海老屋総本舗（えびやそうほんぽ）は、東京の東部、墨田区吾妻橋に暖簾を掲げる老舗の佃煮店です。その正式名称は、株式会社海老屋総本舗とされています。

その歴史は非常に古く、日本の近代化が始まったばかりの明治二年に初代である川北三郎兵衛氏によって創業されました。創業の地は、当時「大川橋」と呼ばれていた現在の吾妻橋のたもとという、隅田川を望む交通の要衝でした。創業者の川北氏は、かつて伊勢の地で武士であったという異色の経歴を持っています。時代の大きな変化の中で、武士としての道を終え、新たな生業として選んだのが、この佃煮作りだったと考えられます。これは、明治維新という激動期を生き抜いた人物の、新しい時代への適応を示すエピソードと言えるでしょう。

創業当初から海老に注目し、初代三郎兵衛氏が考案したとされるのが、ユニークな名を持つ「海老鬼がら焼」です。これは、小ぶりな海老を殻ごと、海老本来の風味を活かしつつ、独特の製法で甘辛くつけ焼きにしたものです。その仕上がりの見た目が、どこか鬼瓦や鬼の角を思わせることから名付けられたと言われています。この「海老鬼がら焼」は、海老屋総本舗の原点であり、創業者の創意工夫と遊び心を伝える商品として、今日まで語り継がれています。

時代と共に商品は多様化し、多くの人々に愛される代表的な商品が生まれました。特に第二次世界大戦後には、現代の海老屋総本舗を代表する商品と言える「たらこ佃煮」と「細切昆布」が登場しました。これらの商品は、伝統的な佃煮の技法を踏襲しつつも、新しい食材を取り入れたり、より食べやすく工夫されたりすることで、当時の食卓はもとより、現代のライフスタイルにも馴染む佃煮として確立されました。甘みと塩味の絶妙なバランス、そしてご飯との相性の良さから、多くの家庭で親しまれ、海老屋総本舗の評判をさらに高めることとなりました。

創業から百五十有余年を経た現在に至るまで、海老屋総本舗は代々事業を受け継ぎ、伝統の味と技術を守り続けています。確認されている情報（2008年時点）によれば五代目の当主がその歴史ある暖簾を守っていたとされており、これは創業者の精神と佃煮作りの技術が、世代を超えて大切に受け継がれていることの証です。

吾妻橋という場所は、隅田川にかかる歴史的な橋であり、東京のシンボルの一つである東京スカイツリーの景観にも近い、情緒と新しさが融合する地域です。そのような土地で長きにわたり商いを続けることは、地域との深いつながりや、多くの顧客からの変わらぬ信頼があってこそ成り立っています。東京の老舗が集まる「東都のれん会」にも名を連ねる存在であり、海老屋総本舗は、佃煮という日本の伝統的な食文化を、この墨田区吾妻橋の地から現代に伝え続けている重要な存在と言えるでしょう。その歴史に培われた味は、東京の食文化の中で確固たる地位を築いています。

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