海軍十二糎自走砲

海軍十二糎自走砲の概要

海軍十二糎自走砲（かいぐんじゅうにせんちじそうほう）は、日本海軍が第二次世界大戦の末期に試作した自走砲の一種である。本車輌は一般に「短十二糎自走砲」と呼ばれることもあり、長十二糎自走砲とも称される。正式名称は不明で、現存資料が乏しく、その詳細には多くの謎が残されている。

車体のデザインと機能

この自走砲は、くすんだ緑色で塗装された車体を持ち、同色で施された十二糎砲も搭載されている。ナンバーや所属部隊を示す記号は一切なく、乗員たちはこの砲を単に自走砲と称していた。用途は対戦車戦闘であり、主砲には四五口径十年式十二糎高角砲が使用されていた。この砲は、対岸砲としての実績があり、車載用に改造された上で、九七式中戦車チハの車体に組み込まれている。

この車両の全周射撃が可能な設計ではあるものの、チハの車体は小型であり、特に横方向の発射時には非常に不安定であったとされる。しかし、戦闘時には車体を地面に埋めて固定することで、発射の不安定さは克服されると考えられていた。しかし、実際にはこのような運用が行われたかは不明である。

防御と運用の特徴

本自走砲には車載機銃は搭載されておらず、前方の視察用スリットが設けられた鋼板によって塞がれている。無線装備も欠如しており、戦闘時は防御力は非常に低いとされる。最大仰角は20度とされ、最高30度に達する場合もあったが、俯角はのみ10度に制限されていた。これは直接的な対戦車戦闘を意図したものであり、防御戦闘を主な目的として設計されていた。

また、砲の周囲には戦闘室を構成するための装甲板はなく、砲と砲架が完全に露出した状態で設置されていた。乗員防御用の装甲板はあっても、小口径の弾薬や廃棄物からの防御に限られていた。すなわち、この自走砲は「グラス・キャノン」の一種であり、防御力を犠牲にして高い火力を追求した設計であった。

運用方法

この自走砲は戦車とは異なり、防御力がほとんどないことから、最初から砲隊として扱われた。正規の乗員は5名おり、配置は指揮官、砲手兼装填手、操縦手、弾薬手2名であった。彼らは戦闘時には各自の役割に応じた配置に着くことが求められた。

本土決戦の際、この自走砲は隠蔽された防御陣地に配置され、敵の動きを待ち伏せしながら戦うことが想定されていた。砲口初速は800m/s以上で、対戦車砲としてのポテンシャルは高い。しかし、発射速度は理論的に2分あたり1発という制約があり、指揮官は運用に対して懐疑的な見解を示している。

昭和20年4月には約30発の射撃試験が行われ、1,500mの距離において高い命中率が記録された。これは東京計器製作の照準器を取り付けた結果、精度が向上したためである。この試験は、車両の使用が続く中で、命中及び運用における有用性を示した。

終戦までの経緯

試作車は終戦までに完成し、量産体制が始まったが、事実上の運用は限られていた。昭和20年の初めには、館山海軍砲術学校に属し、様々な試験を通じてその能力を測られた。最終的に横須賀の陸戦隊に配属され、終戦を迎えた後、アメリカの部隊に引き渡された。

登場作品

...また、ゲーム『War Thunder』の中でも、「長十二糎自走砲」として登場し、その存在は再び注目を集めている。

もう一度検索