浸透探傷試験

浸透探傷試験（PT）の解説

浸透探傷試験（Penetrant Testing、PT）とは、材料表面のきずを検出するための非破壊検査法の一種です。目に見えない微小なきずであっても、特殊な液体を用いて拡大表示することで、その有無や大きさを確認することができます。航空機、原子力プラント、自動車、橋梁など、安全性が特に求められる分野で広く活用されています。

試験原理

PTは、きずの中に特殊な色付きまたは蛍光を発する浸透液を浸透させ、その後、表面に残った浸透液を除去します。そして、きずの中に残った浸透液を現像剤で引き出すことで、きずを拡大して可視化します。きずの形状、大きさ、位置などを確認することで、材料の健全性を評価できます。

歴史

PTの起源は、19世紀後半の鉄道車両検査で使用されていた「oil and whiting試験」に遡ります。これは、灯油などにチョークの粉を混ぜて割れなどを検出する方法でしたが、精度に課題がありました。

1930年代後半からは、感度と安定性の高い探傷剤の開発が進み、1937年には蛍光塗料を用いた浸透液が開発され、1942年に商品化されました。その後、航空機産業を中心に普及し、特に米軍の導入が大きな役割を果たしました。水洗性、後乳化性などの試験法が開発され、安全性や環境への配慮も高まりました。日本では第二次世界大戦後、航空機産業から導入され、原子力産業などにも拡大しました。

適用範囲

PTは、金属、非金属を問わず、鉄鋼、アルミニウム合金、セラミックス、プラスチックなど、幅広い材料に適用できます。原子力機器、圧力容器、航空機、自動車、電気機器など、多くの工業分野で活用されています。ただし、表面にコーティングやスケールがある場合、多数の孔が開いている場合、油などで汚染されている場合は、適用できない場合があります。

検出可能なきずの大きさ

検出可能なきずの大きさは、染色浸透探傷試験では長さ1mm、深さ30μm、幅1μm程度、蛍光浸透探傷試験では深さ10μm程度のきずまで検出可能です。

適用部位

PTは、小型部品から大型構造物まで、様々な部位に適用できます。

小型部品: 鋳造品、鍛造品、ボルト、ナットなど。水洗性蛍光浸透探傷試験が広く用いられます。
大型製品: 原子力機器、圧力容器、航空機など。微細なきずでも重大な事故につながるため、厳格な検査が必要です。
溶接部: 溶接部の融合不良、割れ、アンダカット、オーバラップなどを検出します。溶接構造物の強度を保つ上で重要な検査です。
表面きず: 表面に開口したきず（割れなど）を検出します。表面きずは内部きずより有害性が高く、早期発見が重要です。

磁粉探傷試験との使い分け

PTと同様に表面きずを検出する非破壊検査法として、磁粉探傷試験があります。PTは金属・非金属を問わず適用できるのに対し、磁粉探傷試験は強磁性体に限定されます。しかし、磁粉探傷試験は表面近傍のきずや、きず内に非金属介在物が詰まっている場合でも検出可能です。そのため、試験体の材質や必要な精度に応じて使い分けられます。

浸透探傷試験の種類

PTは、浸透液の種類、除去方法、現像方法によって、いくつかの種類に分類されます。これらを組み合わせて、検査対象や目的に最適な試験方法を選択します。

余剰浸透液の除去方法: 溶剤除去性、水洗性、後乳化性
観察方法: 染色浸透探傷試験、蛍光浸透探傷試験
* 現像方法: 速乾性現像法、湿式現像法、乾式現像法、無現像法

これらの組み合わせによって、溶剤除去性染色浸透探傷試験、水洗性蛍光浸透探傷試験など、様々な試験方法が生まれます。それぞれの試験方法には、適用条件、利点、欠点があります。

試験手順

PTの手順は、前処理、浸透処理、乳化処理（後乳化性の場合）、除去処理または洗浄処理、乾燥処理、現像処理、観察、後処理などからなります。それぞれの工程で、適切な探傷剤や手法を用いる必要があります。

探傷剤

PTには、浸透液、除去液（洗浄液）、乳化剤、現像剤など、様々な探傷剤が使用されます。それぞれの剤は、それぞれの特性を生かして適切に選択する必要があります。

規格

PTに関する規格としては、JIS Z 2300、JIS Z 2323、JIS Z 2340、JIS Z 2343などがあります。

まとめ

PTは、材料表面のきずを検出する上で非常に有効な非破壊検査法です。その原理、種類、適用範囲、手順などを理解することで、より効果的な検査を実施できます。安全性の高い社会を実現するためにも、PTの重要性はますます高まっています。

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