消尽

知的財産権の消尽：権利行使の制限と流通の自由

知的財産権は、発明、著作物、ブランドなど、知的創造物に対する独占的な権利を権利者に与えます。しかし、権利者が製品を販売した場合、その製品に対する権利行使はどのように制限されるのでしょうか？これが、知的財産権の「消尽」の問題です。

消尽とは、権利者が生産・販売した知的財産権に係る製品について、権利行使が制限されることを意味します。例えば、特許権者は特許製品を販売した場合、その製品の再販売に対して特許権を行使できなくなります。これは、権利者が既に製品の販売によって利益を得ているため、流通における二重の利益獲得を避けるためです。また、商品の自由な流通を促進し、市場の効率性を高める効果もあります。

しかし、消尽の適用範囲は知的財産権の種類、そして国内取引か国際取引かによって異なります。法律に明文で規定されている場合もあれば、判例や学説によって確立されている場合もあります。

国内消尽と国際消尽

消尽には大きく分けて「国内消尽」と「国際消尽」があります。国内消尽は、国内における製品の流通を問題とするもので、権利者が国内で販売した製品は、国内での再販売に対して権利行使が制限されます。一方、国際消尽は、国境を越えた流通を問題とするもので、権利者が自国で販売した製品が国外で再販売される場合にも、権利行使が制限されるかどうかを問うものです。国際消尽の可否は、発展途上国と先進国との間の通商問題でも重要な論点となっています。

各知的財産権における消尽

特許権: 日本の特許法には消尽に関する明文規定はありませんが、判例により、特許権者は販売した特許製品の再販売に対して特許権を行使できないとされています。ただし、販売後に製品が加工され、元の製品と同一性を失うような改変が加えられた場合は、特許権は消尽せず、特許権侵害となる可能性があります。また、並行輸入品（外国で生産された製品）の販売に関しては、権利者と譲受人との間で販売先や使用地域を制限する合意があれば、消尽は認められず、特許権侵害となる可能性があります。

商標権: 商標権は、商標に付された商品の信用を保護するものであり、消尽の概念は一般的に適用されません。転売行為が商標権侵害となるかどうかは、商標の機能が害されるかどうかで判断されます。

著作権: 日本の著作権法は、国際条約に準拠し、譲渡権の消尽を規定しています。これは、著作物の権利者がその著作物を譲渡した場合、譲渡を受けた者は、その著作物を自由に利用できることを意味します。

その他: 半導体集積回路の回路配置、種苗など、他の知的財産権についても、それぞれの法律で消尽に関する規定が設けられています。

アメリカ合衆国における事例

アメリカ合衆国では、1976年著作権法で「頒布権の消尽」が規定され、国内で製造された正規品の再輸入、そして海外で製造された正規品の並行輸入も連邦最高裁で認められています。これは、ファーストセール・ドクトリン（一度販売された製品については、権利者はその後の流通を制御できない）に基づくものです。

国際条約

TRIPS協定では、知的所有権の消尽に関する問題について、協定の規定を用いて紛争解決を行うことを禁止しています。一方で、実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約では、締約国がそれぞれの状況に応じて消尽に関する規定を自由に定めることを認めています。

まとめ

知的財産権の消尽は、権利者の独占権と市場における商品の自由な流通とのバランスをどのように取るべきかという難しい問題を含んでいます。各国の法律や判例、そして国際条約は、このバランスを調整するための様々なアプローチを示しています。それぞれの知的財産権の種類、国内取引か国際取引か、そして個々のケースの具体的な状況を考慮して、消尽の適用範囲を判断することが重要です。

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