淡墨桜

岐阜県本巣市の名木、淡墨桜

淡墨桜は、岐阜県本巣市の根尾谷淡墨公園にそびえ立つ、樹齢1500年を超えるエドヒガンの老木です。その名の由来は、散り際に花びらが淡い墨色を帯びることにあります。蕾の時は薄いピンク色、満開時には純白の花を咲かせ、その姿は見る者を魅了します。

特徴

樹高は約16.3メートル、幹回りは約9.9メートル、枝張りは東西に約26.9メートル、南北に約20.2メートルにも及びます。継体天皇お手植えの伝承も残るこの桜は、福島県の三春滝桜、山梨県の山高神代桜と並び、日本三大桜の一つとして知られています。また、埼玉県の石戸蒲ザクラ、静岡県の狩宿の下馬ザクラを加えた日本五大桜の一つとも称されます。

近年、老木化が進み、幹内部の空洞化も広がっていますが、樹木医や地元の人々による手厚い保護活動によって、その命脈を保っています。作家の宇野千代も保護活動に尽力したことで知られています。淡墨桜の苗木は各地に分植され、その子孫が岐阜県や愛知県各地で花を咲かせています。

沿革

伝承によれば、淡墨桜は467年頃、男大迹王（後の継体天皇）がこの地を去る際に植えられたとされています。1913年の大雪により幹に亀裂が入り樹勢が衰えましたが、1922年には国の天然記念物に指定されました。

1948年には枯死の危機に瀕しましたが、岐阜市の歯科医師・前田利行による山桜の根の接木によって見事に蘇り、1950年には再び花を咲かせました。1959年の伊勢湾台風で被害を受けた際には、宇野千代がその惨状を憂い、保護活動の必要性を訴えました。その後、生物学者の堀武義による診断と再生策が実施され、現在に至るまで保護活動が続けられています。

2003年には飛騨・美濃さくら三十三選に選定され、2008年には花の種が国際宇宙ステーションで宇宙実験に使用されるなど、多岐にわたる活動が行われています。2022年には国の天然記念物指定100周年を迎え、本巣市により記念事業が開催されました。しかし、2025年には積雪により枝が折損する被害も発生しており、その保護には引き続き注意が必要です。

子孫樹

淡墨桜の子孫樹は各地に植えられています。栃木県下野市の天平の丘公園には、淡墨桜の実生から育った苗が移植され、「下野淡墨桜」として花を咲かせています。また、埼玉県東松山市の東松山市庁舎南側広場には、双子の「きんさんぎんさん」の手によって植樹された淡墨桜があります。さらに、アメリカのワシントンD.C.にあるタイダルベイスンにも淡墨桜のクローンが植えられており、国際的な広がりを見せています。

所在地とアクセス

• - 所在地：岐阜県本巣市根尾板所字上段995 淡墨公園内
• - アクセス：樽見鉄道樽見線樽見駅下車後、徒歩15分

花見シーズンには、樽見鉄道が特別ダイヤで運行されます。また、淡墨桜へ向かう国道157号は「淡墨街道」と呼ばれ、多くの観光客で賑わいます。

淡墨桜を題材とした作品

淡墨桜は、多くの文学作品、音楽作品、映画作品、絵画作品にインスピレーションを与えてきました。

文学作品

『真清探當證』(古書)
『生きて行く私』 - 宇野千代 著
『薄墨の桜』 - 宇野千代 著
『淡墨桜』 - 宇野仟江子 著
『桜守』 - 水上勉 著
『生きよ淡墨桜―前田利行の反骨の生涯』 - 桑原恭子 著

音楽作品

『樹魂の歌』 - 藤掛廣幸 作曲
『淡墨桜』 - 石原詢子 の曲
『淡墨桜』 - 夏木綾子 の曲
『淡墨ザクラ』 - MEGAHORN&アリタック の曲
『淡墨桜』 - 橘川琢 の曲

映画作品

『薄墨の桜』 - 羽田澄子 監督作品

絵画作品

日本画『淡墨桜』 - 中島千波 作
切手『淡墨桜』 - 伊藤嘉晃 作


淡墨桜は、その美しい姿と歴史、そして人々の手による保護活動によって、これからも長く愛され続けることでしょう。

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