三春滝桜

三春滝桜：悠久の時を刻む巨木の物語

福島県田村郡三春町に鎮座する三春滝桜は、推定樹齢1000年を超える枝垂れ桜の巨木であり、国の天然記念物に指定されています。その圧倒的なスケールと、春に咲き誇る薄紅色の花は、多くの人々を惹きつけてやまない、日本を代表する桜の名所です。別名「三春の滝桜」や「滝桜」とも呼ばれ、日本五大桜、あるいは三大巨桜の一つに数えられています。

圧巻のスケールと、その名に隠された理由

三春滝桜は、エドヒガン系の栽培品種であるベニシダレ桜です。2012年時点での測定では、樹高12m、根回り11m、幹周り9.5m、枝張りは東西22m、南北18mにも及ぶ巨木です。その大きさはまさに圧巻で、三春町の滝地区に位置することから「滝桜」と名付けられました。春になると、四方に広がる枝から無数の薄紅色の花が流れ落ちるように咲き誇り、まさに滝のように見えることから、この名がついたと言われています。開花時期には、全国から約30万人の観光客が訪れる、人気の観光スポットとなっています。

歴史と保護、そして幾多の試練

天保の頃には、歌人・加茂季鷹が「陸奥にみちたるのみか四方八方にひびきわたれる滝桜花」と詠み、その名を知らしめました。その後、三春藩主の御用木として大切に保護されてきました。

1922年には、2本の桜とともに国の天然記念物に指定され、1990年には「新日本名木100選」の名木ベスト10にも選ばれました。「日本さくら名所100選」には、滝桜を含めた三春町の約2000本のシダレザクラが選定されています。

しかし、その歴史の中で幾度となく試練に見舞われました。1996年には、花付きが悪くなったことから、土壌改良を中心とした樹勢回復工事が行われました。2005年には大雪で枝が折れる被害を受け、2011年には東日本大震災に見舞われましたが、大きな損傷は免れました。それでも、震災の影響や原発事故により観光客が減少、観桜料収入の激減といった経済的な打撃も受けました。

宇宙へ旅立った種子と、全国に広がる子孫

興味深い取り組みとして、2008年から2009年にかけて、三春滝桜を含む14種の花の種子が国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」に送られ、無重力状態での発育に関する実験が行われました。この実験によって生まれた桜は「宇宙桜」と呼ばれ、各地に植樹されています。

また、三春滝桜の子孫樹は全国各地に広がり、その多くは柳沼吉四郎氏による種子の普及活動によるものです。三春町内だけでも420本以上の根回り1メートル以上の枝垂れ桜が存在し、滝桜から同心円状に広がるその分布は、子孫樹であることを示唆しています。現在も、接ぎ木などの方法で滝桜の生産が行われています。

各地の子孫樹と姉妹樹

三春滝桜の子孫、姉妹樹は、日本各地だけでなく、海外にも広がっています。代表的なものとして、岩手県一関市、宮城県仙台市、福島県内の各地、栃木県、埼玉県、東京都、山梨県、香川県などに植樹されています。海外では、台湾、ポーランド、ハンガリー、オーストリア、韓国などにその姿を見ることができます。それぞれの土地で、三春滝桜の遺伝子を受け継ぎ、人々に春の訪れを告げ続けています。

アクセスと周辺情報

三春滝桜は、JR磐越東線三春駅から約8km、磐越自動車道船引三春ICから約3kmの場所にあります。開花時期には、シャトルバスや有料駐車場が運行・設置されますが、周辺道路は大変混雑するため注意が必要です。周辺には、他の桜の名所や観光スポットも多いので、合わせて訪れるのも良いでしょう。

終わりに

三春滝桜は、単なる桜の巨木ではありません。悠久の歴史、幾多の試練を乗り越えてきた生命力、そして全国、世界へと広がる子孫樹。その存在は、日本の自然、そして人々の歴史と文化を象徴するものです。一度、その雄大な姿と、春の訪れを告げる美しい花々を、自身の目で確かめてみてください。

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