混声の森

混声の森

松本清張による長編小説『混声の森』は、1967年から1968年にかけて『信濃毎日新聞』で連載され、1975年に角川書店から単行本として発売されました。この作品は、複雑に絡み合った人物関係や権力闘争が描かれたサスペンスであり、女性たちが中心となる形で進行します。

あらすじ

物語の舞台は東京から多摩川を越えた小田急線沿線にある若葉学園という私立女子大学。この学園の現理事長である大島圭蔵は、元官僚で学園内で非常に強い権力を持っています。しかし、彼を追い出そうとする専務理事の石田謙一が存在します。謙一は、秋山千鶴子という職員と共に学生旅行の引率を行う大島の行動を探ることに執念を燃やします。

謙一は家庭内での悩みや愛人である加藤加寿子との関係によって精神的にも疲弊しており、そんな中、学園の新しい学長として京都に住む法学界の重鎮である柳原博士を迎え入れようと画策します。そして、鈴木道夫事務局長との相談のもと、謙一は大島を陥れるための偽造投書を仕組むことを決意し、両者は対立を深めていきます。この対立の中で、謙一の息子石田恭太も家庭内での問題を抱え、問題が一層複雑化します。

主な登場人物

• - 石田謙一: 若葉学園の専務理事で、大島の権力を排除しようと営々と努力する男。
• - 大島圭蔵: 学園の理事長であり、学内で実質的な支配者。元官僚であるため、非常に手腕がある。
• - 秋山千鶴子: 学園の職員であり、大島の愛人。
• - 加藤加寿子: 謙一の愛人で、渋谷のバーのマダム。
• - 柳原是好: 京都で引退した法学者で、学園の新学長候補。
• - 鈴木道夫: 学園の事務局長で、謙一の右腕的存在。

このように、複数の人物がそれぞれの目的を持って動き、学園内での権力争いが繰り広げられます。物語は、個々の登場人物の心理描写と、それに伴う複雑な人間関係が緻密に描かれているのも特徴です。

テレビドラマ化

『混声の森』は1978年と2022年にテレビドラマとしても製作されました。

1978年版

1978年版は、TBSで全5回にわたって放送されました。主演には丹波哲郎が石田謙一役、東野英治郎が大島圭蔵役を務めました。このバージョンは、特に新人賞を受賞するなどの評価を受け、多くの視聴者に親しまれました。

2022年版

2022年版は、NHK BSで前編と後編の2部作として放送されました。主演は沢村一樹が石田役、船越英一郎が大島役を演じました。現代の視点を取り入れたリメイクは、新たな視覚的体験を視聴者に提供しました。

関連項目

小説の中には、実在の料理屋や旧帝国女子専門学校の歴史が描かれ、物語に深みを与えています。また、舞台となる平野屋は、現在も営業を続けている店であり、円山公園の中に位置しています。このような実在の要素が作品にリアリティを感じさせる一因となっています。

『混声の森』は、松本清張の手腕により、ただのサスペンスに留まらず、人間の欲望と権力の腐敗を描いた深い作品であり、今もなお多くの人々に愛されています。

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