混水摸魚

混水摸魚（こんすいぼぎょ）

混水摸魚は、三十六計の第二十計に数えられる計略です。「水を混ぜて魚を摸（と）る」という言葉が示すように、敵の内部を混乱させ、その隙に乗じて利益を得ることを意味します。具体的には、敵の組織や人心を攪乱し、弱体化させたり、誤った行動を誘発したりすることで、自軍にとって有利な状況を作り出す戦術です。

混水摸魚の戦略

この計略は、敵の内部に混乱を生じさせることに重点を置いています。その手段は様々であり、偽情報を流布したり、敵の内部対立を煽ったり、あるいは敵の指導者を疑心暗鬼に陥れたりすることが考えられます。

『六韜』には、「全軍の兵が動揺して、兵の心が一つにまとまらず、敵が強力であることを恐れ、戦争をするのは不利だと語りあい、互いに聞き耳を立て盗み見をして、噂話がやまず、互いに惑わし、法令が守られず、将軍が軽んじられているならば、その軍が弱い証拠である」とあります。間者を使って宣伝し、人心を混乱させることで、敵をこのような状況に追い込み、叩くことを狙います。

混水摸魚は、敵の弱点に乗じて攻める「趁火打劫」とは異なり、敵の内部に問題を作り出し、そこに付け込むという点で特徴的です。また、直接的な戦闘行為だけでなく、外交交渉など、様々な場面で応用できる点もこの計略の強みと言えるでしょう。劉備が呉姫（孫尚香/孫仁）を娶ったり、故意に複雑な条件で交渉したりすることで、孫権を煙に巻いて、荊州の租借地を広げて西川も奪ったことなども、この混水摸魚の計の例だとされます。

歴史における事例

混水摸魚は、歴史上の様々な場面で用いられてきました。以下にその代表的な事例を2つ紹介します。

寧王の乱

明代、寧王の朱宸濠が反乱を起こした際、鎮圧を命じられた王陽明は、準備が整わない状況を打破するため、混水摸魚の計を用いました。彼は、寧王の配下である李士実と劉養正に宛てて偽の親書を作成し、寧王が城を離れた隙に事が成就すると吹き込みました。この偽情報を流すことで、寧王は李士実と劉養正を疑心暗鬼に陥り、南京を占領する好機を逃してしまいます。その間に王陽明は軍備を整え、最終的に寧王を鎮圧することに成功しました。

袁崇煥の悲劇

明末、袁崇煥は、清（後金）の侵攻を防ぐために辺境の軍を整備し、多大な功績を挙げました。しかし、清のホンタイジは、袁崇煥を陥れるために混水摸魚の計を仕掛けます。ホンタイジは間者を放ち、袁崇煥が清と内通しているという偽情報を流布したのです。その結果、北京の民衆は袁崇煥を疑い、宮廷内でも袁崇煥を讒言する声が高まりました。崇禎帝は、ホンタイジの策略に翻弄され、袁崇煥を処刑してしまいます。有能な武将を失った明は、その後、清によって滅亡へと向かうことになります。

まとめ

混水摸魚は、敵の内部を混乱させ、自軍を有利な状況に導くための高度な戦略です。この計略を成功させるためには、敵の状況を的確に把握し、偽情報や謀略を駆使して、敵を欺く必要があります。しかし、その効果は絶大であり、劣勢な状況を覆すことも可能にします。現代社会においても、ビジネスや交渉の場面で、この混水摸魚の計を応用することで、有利な結果を得ることができるかもしれません。

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