渋谷悠

渋谷悠（しぶやゆう）は、1979年5月4日生まれの劇作家、脚本家、映画監督、舞台演出家であり、時には俳優としても活動する多才なバイリンガルクリエイターです。日本語と英語の両言語で創作を行い、自身の主宰する劇団「牧羊犬」を中心に、演劇や映像作品を手がけています。

東京都八丈島に生まれ、板橋区で育ちました。幼少期から高校まで都内のインターナショナルスクールに通い、演劇との出会いは学校の劇でした。これを機に俳優を志して渡米し、カリフォルニア州レッドランズ大学で演技や脚本分析、舞台美術を深く学びます。しかし、不条理劇の出演経験を通して、他者の思想を表現することへの抵抗を感じ、「内容を生み出す」側への転身を決意。創作文学を専攻し、学士号を取得しました。さらに、インディアナ州パーデュー大学院に進学し、奨学金を得ながら創作文学で修士号を取得。大学院時代に執筆した戯曲「Selling Umbrellas」は学内のコンクールでグランプリを受賞し、著名な劇作家トニー・クシュナーからも注目され、後に自身の長編監督作『美晴に傘を』の原案となります。

帰国後、渋谷氏は日本の演劇・映画界で精力的に活動を展開します。2014年には演劇ユニット「牧羊犬」を旗揚げし、『狼少年タチバナ』、『底なし子の大冒険』、『夜の初めの数分間』といったオリジナル作品を発表。特に『夜の初めの数分間』は佐藤佐吉賞において最優秀脚本賞を含む複数の賞を獲得するなど高い評価を得ています。

映像分野でも数々の実績を上げており、日米共同制作の短編映画『自転車』（2009年）は第66回ベネチア国際映画祭をはじめ世界各地の映画祭で入選・受賞を果たしました。日米合作映画『千里眼(CICADA)』（2014年）はロサンゼルスアジア太平洋映画祭とグアム国際映画祭でグランプリに輝きました。また、監督・脚本・主演を務めた短編映画『Repeat After Me』（2018年）も小津安二郎記念蓼科高原映画祭などでグランプリを受賞しています。共同脚本を手掛けた映画『猿楽町で会いましょう』（2021年）も話題となりました。そして、パーデュー大学院時代の戯曲を基にした初の長編監督作品『美晴に傘を』が2025年1月に公開予定です。

テレビでは、WOWOWの『パラリンピック･ドキュメンタリーシリーズ WHO I AM シーズン2』（2017年）の構成を担当し、第46回国際エミー賞ドキュメンタリー部門にノミネートされるという快挙を成し遂げました。NHKドラマの脚本も手掛けています。

渋谷氏の特筆すべき活動の一つに、モノローグ（一人芝居）の普及があります。欧米では俳優の基礎訓練として広く用いられるモノローグが、日本ではあまり浸透していない現状を憂い、日本の俳優の演技力向上と業界全体の活性化を目指し、モノローグ作品の執筆と普及に力を注いでいます。2018年に日本初のモノローグ集とされる『穴』を出版し、続いて『ハザマ』を刊行。これらのモノローグ台本は、より多くの人々に活用してもらうため、渋谷氏への使用許可や上演料を不要としています。また、一部の作品はインターネット上で無償公開しており、コロナ禍における俳優支援策としても注目され、NHKのドキュメンタリー番組で紹介されました。

教育者としての側面も持ち、スクリプトドクターとして脚本を診断・改善指導するほか、大学やアクティングスクールで脚本執筆や英語演技の講師を務めています。YouTubeチャンネル『超映画ワークショップ』では映画製作のノウハウを解説し、stand.fmでは音声配信を行うなど、その活動は多岐にわたります。ナレーターとしても活動しており、YouTubeチャンネル『聖書プロジェクト』のメインナレーターを担当しています。

渋谷氏の作品の多くは、ファンタジックな要素を交えながらも、日常の中に潜む人間の心の変化や葛藤、そして何よりも人間の弱さへの深い理解と慈しみをテーマとしています。これはサンダンス・インスティトゥートの関係者からも「Love and understanding of human weakness」と評されました。「書かないと消えそうなもの」を描いたモノローグ集『穴』に象徴されるように、目の前の現実を丁寧に捉えつつ、「人はこうなれる」という可能性を信じる視点が、その創作の根底にあります。コメディからシリアス、詩的な作風まで、幅広い表現で観客や読者に語りかけています。

劇団主宰、映像作家、脚本家、作家、教育者、そしてモノローグの伝道師として、日本のクリエイティブシーンにおいて独自の存在感を放つ渋谷悠氏。その情熱的な活動は、今後も様々な形で展開されていくことでしょう。

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