減三和音

減三和音 (Diminished Triad)

減三和音（げんさんわおん）は、音楽における基本的な和音の一つである三和音の種類の一つです。根音（和音の基礎となる音）の上に、短三度（根音から数えて3半音上の音）と減五度（根音から数えて6半音上の音）を積み重ねて構成されます。この「減五度」という音程が含まれるため、減三和音は不安定で耳に残りやすい、いわゆる不協和な響きを持っています。

別称としては、英語圏ではその構成音の特徴から「マイナーフラットフィフス（minor flatted fifth）」とも呼ばれます。各言語における呼称は以下の通りです。

英語: diminished triad, minor flatted fifth
ドイツ語: Verminderter Dreiklang

構成音の詳細

減三和音は、以下の三つの音程で構成されます。

1. 根音 (R): 和音の基点となる音です。
2. 短三度 (m3°): 根音から3半音上の音です。
3. 減五度 (-5° または dim5°): 根音から6半音上の音です。

この和音の響きが不安定なのは、根音から見て減五度という非常に協和しにくい音程を含むためです。また、別の視点で見ると、この和音は根音から短三度を二回重ねた構造（例: ド→ミ♭→ソ♭）とも解釈でき、この積み重ね方も不安定さの一因となります。

主な用法

減三和音は、その不安定な特性から、楽曲に緊張感を与えたり、次の和音への進行を強く促したりする目的で用いられます。主に以下のような文脈で使用されます。

ダイアトニック・コードとして

特定の音階に基づいて作られるダイアトニック・コードとして、減三和音は主に短調の音階、および長調・短調の和声的・旋律的短音階に現れます。

短調のII度の和音: 自然短音階におけるII度の和音は減三和音になります。機能としては主にサブドミナント・マイナー、あるいは単にサブドミナントとして機能し、特にツーファイブ進行（II-V-I）の一部として、属七の和音（V7）への橋渡し役を務めることが多いです。
例（イ短調）: イ短調の主和音（Am）へ解決する前に、II度の減三和音（Bm(♭5)）が属七（E7）の前に置かれる進行（Am→Bm(♭5)→E7→Am）など。
長調、和声的短音階、旋律的短音階のVII度の和音: これらの音階におけるVII度の和音も減三和音となります。このVII度の減三和音は、主音への解決志向が強く、機能的にはドミナントとして扱われます。属七の和音（V7）の根音を省略した形と解釈されることもあります。
例（ハ長調）: ハ長調の主和音（C）へ戻る前に、VII度の減三和音（Bm(♭5)）が置かれる進行（C→Bm(♭5)→C）など。

ノン・ダイアトニック・コードとして

特定の調のダイアトニック・コード以外でも、経過的な響きとして減三和音が使用されることがあります。

経過和音 (passing chord): 和音と和音の間を滑らかにつなぐために、一時的に挿入されることがあります。この場合、特定の機能を持つわけではなく、単に隣接する和音への移行を自然にする役割を果たします。
例（ハ長調）: 例えば、C→Dm→Emという進行がある場合、それぞれの間を埋めるようにC#m(♭5)やD#m(♭5)といった減三和音が挿入されることがあります（C→C#m(♭5)→Dm→D#m(♭5)→Emなど）。

経過和音として減三和音を用いる場合、原則としてその次に続く和音は長三和音か短三和音でなければならない、という制約があります。もし次に七の和音が続く場合でも、その和音の三和音部分は長三和音か短三和音である必要があります。

減三和音は、その独特な不安定さから、楽曲に緊張感や色彩を加える上で重要な役割を担っています。時には、より不安定な響きを持つ減七の和音などに発展したり、属七の和音に取って代わられたりすることもあります。和声学や作曲において、その使い方を理解することは、表現の幅を広げる上で欠かせません。

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