渡り鳥条約

渡り鳥条約（わたりどりじょうやく）

渡り鳥条約（わたりどりじょうやく）は、国境を越えて移動する渡り鳥や、絶滅の危機に瀕している鳥類の個体およびその生息環境を保全するために、日本が特定の外国との間で締結している二国間間の条約または協定の総称です。

日本列島は、東アジアから太平洋地域にかけて広がる渡り鳥の主要な移動経路（フライウェイ）上にあるため、多くの種類の鳥類が季節的な移動を行います。実際に、日本国内で確認されている野生の鳥類の約四分の三にあたる約400種が、北米大陸、ロシア、中国、東南アジア、オーストラリアなど、広範な地域との間を渡っていることが知られています。こうした国際的な移動を行う鳥類を効果的に保護するためには、一国だけの取り組みでは限界があり、関係する国々が連携して、捕獲の規制や生息地の保全といった措置を講じることが不可欠となります。渡り鳥条約は、このような国際協力の枠組みを提供するために設けられています。

日本は現在、渡り鳥の保護に関して以下の四つの国・地域との間で条約または協定を締結しています。

1. アメリカ合衆国：1972年に「渡り鳥及び絶滅のおそれのある鳥類並びにこれらの環境の保護に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約」（日米渡り鳥条約）を署名しました。
2. ロシア：旧ソビエト連邦との間で、1973年に「渡り鳥及びその生息地の保護に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の条約」（旧日ソ渡り鳥条約、現日露渡り鳥条約）を署名しました。
3. オーストラリア：1974年に「渡り鳥並びにその生息環境の保護に関する日本国政府とオーストラリア政府との間の協定」（日豪渡り鳥協定）を署名しました。
4. 中華人民共和国：1981年に「渡り鳥及びその生息環境の保護に関する日本国政府と中華人民共和国政府との間の協定」（日中渡り鳥協定）を署名しました。

これらの条約や協定に基づき、日本と各締約国は定期的な協議を行っています。概ね2年ごとに持ち回りで開催される会合では、渡り鳥の生態に関する情報や保護のための施策について活発な意見交換が行われるほか、共同での調査・研究計画の策定や、渡り鳥にとって重要な湿地などの生息地の保全に向けた協力体制が協議されます。これにより、共通の課題認識に基づいた効果的な保護活動の実施が目指されています。

なお、韓国との間には、渡り鳥の保護を直接の目的とした二国間条約・協定はありませんが、1993年に発効した「日韓環境保護協力協定」の枠組みのもとで、「日韓渡り鳥保護協力会合」が定期的に開催されており、渡り鳥に関する情報の交換や協力の可能性について話し合いが行われています。

渡り鳥条約は、特定の鳥類の保護に加えて、それらの鳥類が生息・飛来する湿地や森林といった生態系の保全にも寄与するものであり、生物多様性の維持という観点からも重要な意義を持っています。国際的な鳥類保護に関連する枠組みとしては、移動性野生動物種の保全に関する条約（ボン条約）や、特に湿地の保全に関するラムサール条約などがあり、渡り鳥条約はこれらと連携しながら、渡り鳥の安全な移動経路と生息環境を確保するための国際的な取り組みの一翼を担っています。

関連項目

移動性野生動物種の保全に関する条約
ラムサール条約

外部リンク

* 山階鳥類研究所 - 渡り鳥条約に関する情報などが参照できます。

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