渡原の大栃

渡原の大栃（どのはらのおおとち）

富山県南砺市渡原地区に根を下ろす、威容を誇るトチノキの巨木です。この木は、その存在感と地域との深いつながりから、重要な文化財として扱われています。

この巨木は、1989年6月10日に当時の平村によって天然記念物として指定されました。その後、市町村合併により平村が南砺市の一部となった後も、引き続き南砺市の指定文化財として保護されています。これは、単なる自然物としてだけでなく、地域の歴史や文化と密接に関わる存在として認識されていることを示しています。

「渡原」という地名は、かつて庄川に設けられていた「籠の渡し」の場所であったことに由来すると考えられています。この地域は、地理的には近くに下梨谷に属する集落がありますが、渡原自体は、小谷地域の人々が城端町へ移動するための拠点として開かれた村であり、小谷地域の一角をなす集落と位置づけられています。このような歴史的背景を持つ地に、この大栃は立っています。

渡原の大栃は、旧平村内で最も大きなトチノキとされており、その根元は一つですが、そこから力強く二本の幹が分かれて伸びる独特の樹形をしています。この巨木が地域住民にとって特に重要であったのは、その実りによるものです。このトチノキは、二年に一度ずつ交互に豊かに実をつけると言い伝えられています。この恵みにより、渡原の人々は他の場所へ栃の実を探しに行くことなく、この一本の大栃から得られる実だけで、地域で大切にされてきた「栃餅」を作るのに十分な量を確保できたと伝えられています。このように、渡原の大栃は、かつての生活や文化を支えるかけがえのない存在だったのです。

この巨木は、時代の変遷を見守りながら、今もなお南砺市渡原の地にしっかりと根を張り、地域のシンボルとして静かに佇んでいます。その存在は、自然の力強さと、それが地域にもたらした歴史的な恵みを今に伝えています。

（参考文献は割愛します）

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