渡瀬常吉

渡瀬 常吉

渡瀬 常吉（わたぜ つねよし、慶応3年7月28日（1867年8月27日） - 昭和19年（1944年）10月14日）は、日本のキリスト教牧師、そして宣教師として知られる人物です。熊本藩八代に武士の子として生まれ、三兄弟の長兄として、弟の千葉昌雄、渡瀬主一郎と共に皆牧師となるという稀有な家庭に育ちました。

幼少期から向学心に富み、後に多くの門下生を輩出した徳富蘇峰が開いた私塾、大江義塾で学びます。信仰への目覚めは早く、18歳という若さで地元の八代組合教会にて洗礼を受け、キリスト教徒としての道を歩み始めました。教育者としてのキャリアも持ち合わせ、小学校教員を務めた後、当時、著名なキリスト教思想家であった海老名弾正が校長を務めていた熊本英学校に招かれ、国語科の教鞭をとる機会を得ます。この熊本英学校での経験を通じて、渡瀬は海老名弾正との師弟関係を深め、その思想的影響を強く受けることになりました。

その後、日本組合基督教会の重要な教会の一つであった本郷教会で牧師を務めた後、その活動の舞台を朝鮮半島へと移します。1899年、大日本海外教育会が運営していた京城学堂の堂長に就任。ここでは約10年間にわたり、教育を通じて日韓両国の融和を図るべく、心血を注いだ教育活動を展開しました。

明治43年（1910年）の日韓併合という歴史的転換期を経て、渡瀬の朝鮮での活動は新たな局面を迎えます。彼は朝鮮総督府からの多額の資金援助を得て、キリスト教伝道活動を積極的に展開するようになります。翌明治44年（1911年）には、伝道のさらなる拡大を目指し、朝鮮の主要都市である京城（現在のソウル）と平壌（現在のピョンヤン）に新たに教会を設立するなど、精力的に活動を進めました。

彼の思想は、当時の日本の植民地政策に対する肯定的姿勢に強く影響を受けていました。大正2年（1913年）に警醒社から刊行した著書『朝鮮教化の急務』の中で、日韓併合は「日本が世界の大勢に順応した結果」であり、「東洋の平和を永遠に保証するための日本帝国存在の必要と同時に、朝鮮一千五百万民衆の幸福を顧念した結果」であると論じました。この記述からは、当時の日本の植民地支配を正当化するような思想が明確にうかがえます。

また、神学的な分野でも独自の解釈を展開しています。昭和9年（1934年）には著書『日本神学の提唱』を発表し、日本の古典である『古事記』に記された内容と聖書の内容が本質的に同一であるというユニークな見解を主張しました。これは、日本の伝統文化とキリスト教信仰を結びつけようとする試みの一つと言えます。

晩年になってもその活動意欲は衰えず、昭和15年（1940年）にはアジア全域へのキリスト教伝道を視野に入れた興亜神学院を設立するなど、その活動範囲を広げようと試みました。しかし、太平洋戦争末期の昭和19年（1944年）、長年活動の拠点とした朝鮮の京城で病のためその生涯を閉じました。

著書

『朝鮮教化の急務』（警醒社書店 1913年）
『日本神学の提唱』（ほざな社 1934年）
* 『海老名弾正先生』（龍吟社 1938年）

渡瀬常吉の生涯は、明治から昭和にかけての日本のキリスト教史、特に海外宣教という側面において重要な位置を占めています。彼の朝鮮における教育・伝道活動は、当時の日本の東アジア政策と深く結びついており、その思想は現代において様々な議論を呼ぶ可能性を秘めています。

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