警醒社

警醒社：日本のプロテスタント出版の先駆者

警醒社は、明治16年（1883年）7月、日本のプロテスタント教会における草創期に設立された画期的な出版社です。単一教派に属さない、超教派の出版社として、日本のキリスト教出版の歴史に大きな足跡を残しました。

設立の中心人物には、植村正久牧師、湯浅治郎氏、小崎弘道氏らがおり、湯浅氏が中心となって資金繰りや運営を担いました。設立当初の資本金は3000円余りと小規模でしたが、その活動は時代の潮流を大きく変えていくことになります。

設立からわずか1ヶ月後の8月には、『東京毎週新報』（のちに『基督教新聞』と改題）を創刊。これは、宗教、文学、科学、政治、経済など幅広い分野を網羅した週刊誌として、当時の知識層に大きな影響を与えました。さらに、東京青年会が発行していたキリスト教界の総合雑誌『六合雑誌』の発行を引き継ぎ、その活動を拡大していきました。

明治22年（1889年）には、東京福音社とキリスト教図書出版社警醒社を合併し、現在の警醒社が正式に設立されました。同社は、キリスト教に関する文芸作品や哲学書などを積極的に出版し、日本のキリスト教文化の発展に貢献しました。大正6年（1917年）には、岡上三咲の小説『若き日のために』を出版。この作品には、橋口五葉による木版画が口絵として用いられ、高い芸術性も併せ持った書籍となりました。

警醒社は、単なる出版事業にとどまらず、日本の近代思想界にも大きな影響を与えました。帝国大学出身者が発行していた『東洋学芸雑誌』に対抗するように、キリスト教を論理的に弁証し、当時の日本の思想や社会問題を啓蒙する役割を果たしました。

特に、内村鑑三の著作を積極的に出版したことは、警醒社の大きな功績の一つと言えるでしょう。内村鑑三の思想は、近代日本の宗教界、思想界に大きな衝撃を与え、警醒社は、その思想の普及に重要な役割を果たしました。

しかし、昭和19年（1944年）、太平洋戦争下の政府による戦時企業整備令により、警醒社は、他のプロテスタント系出版社10社とともに統合され、新教出版社となりました。警醒社という名は消滅しましたが、その活動は日本のキリスト教出版の歴史に深く刻まれ、現代にまでその影響は続いています。警醒社は、明治期の日本のキリスト教界における重要な文化的基盤であったと言えるでしょう。その出版活動は、日本の近代化とキリスト教の普及という二つの大きな流れを繋ぐ重要な役割を果たしたのです。

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