渡田均

渡田 均（わたりだ ひとし）

プロ野球セントラル・リーグで長年にわたりグラウンドの公平性を守った審判員、渡田均氏は、1958年5月1日に広島県に生まれました。2020年7月6日に62歳でこの世を去るまで、彼の人生は野球とともにありました。現役引退時の袖番号は31で、これは1988年に袖番号制度が導入されてから一貫して使用された番号です。

異色のキャリアと審判員への道

渡田氏の経歴はプロ野球界では珍しいものでした。関西大倉高等学校を経て進学した大阪体育大学では、ラグビー選手として活躍。特にフランカーとして才能を発揮しましたが、腰痛のため競技を続けることを断念せざるを得ませんでした。アスリートとしての道を諦めた後、彼は審判員の道を志し、1982年にセントラル・リーグの審判員として採用されました。そして1985年に一軍公式戦に初出場を果たし、プロフェッショナルとしてのキャリアをスタートさせました。

審判員としての歩みと重要な舞台

キャリアを重ねるごとに、渡田氏は審判団内での地位を向上させていきました。1997年には審判部主任となり、2009年には副部長に昇格（2011年からは役職名が変更されクルーチーフとなる）。2014年からはクルーチーフの役職を離れ、一般審判員として活動を続けました。

渡田氏は、その長年の経験と信頼を 바탕に、多くの重要な試合を担当しました。日本シリーズに5回、オールスターゲームに5回出場し、それぞれで球審を務めた経験も複数回あります。また、クライマックスシリーズには16試合、アジアシリーズには3試合出場しています。

特に、2009年に開催された第2回ワールド・ベースボール・クラシック（WBC）では、日本から派遣された審判員の一人として国際舞台に立ちました。2次ラウンドの4試合で、一塁または三塁の塁審を務め、国際的な基準でのジャッジを経験しました。

マスクへのこだわり

球審を務める際のマスクにも、渡田氏独自の選択が見られました。多くの審判員がスロートガード（喉当て）一体型のマスクを使用する中で、彼は2011年シーズンまではスロートガードをマスクに装着するタイプを使用していました。2012年シーズンからウィルソン社の一体型マスクに変更しましたが、さらに安全性を期したのか、2013年シーズン以降は一体型マスクに重ねてスロートガードを装着するという、独特のスタイルで臨んでいました。

判定を巡るエピソード

渡田氏の審判員キャリアには、いくつかの判定を巡る注目すべきエピソードがあります。特に2001年には短期間に立て続けに話題となる判定がありました。

2001年8月10日（巨人対ヤクルト）：東京ドームでの試合で三塁塁審を務めた際、巨人の仁志敏久選手の打球を本塁打と判定しましたが、ヤクルトの若松勉監督の抗議を受け、審判団協議の末ファウルボールに覆りました。今度は巨人の長嶋茂雄監督が抗議し、試合は合計16分間中断。この一件は、セ・リーグが審判部に対し、判定に疑問があれば抗議前に全審判員で協議を行うよう求める契機となりました。

2001年8月16日（ヤクルト対横浜）：神宮球場での試合で二塁塁審を務めた際、延長12回の横浜の攻撃で、佐伯貴弘選手の打球を左翼手がダイレクトキャッチしたと判断してアウトを宣告しました。しかし、横浜の森祇晶監督から「ワンバウンド捕球だ」との抗議があり、試合は28分間中断。森監督は試合続行拒否を理由に退場処分となりました。短期間での相次ぐ判定トラブルに対し、渡田氏はセ・リーグから「精神的に動揺が見られる」として10日間の休養処分（事実上の謹慎）を受けました。

また、2009年のWBC 2次ラウンドでのプエルトリコ対ベネズエラ戦では、三塁塁審としてベネズエラの選手の打球がフェンスを越えたかどうかの判定に直面しました。打球は一度グラウンドに跳ね返り、他の審判員はインプレーと判断しましたが、渡田氏は打球が確実にフェンスを越えたと主張。ビデオ判定が技術的に困難だった状況で、渡田氏の確信に基づいた主張が受け入れられ、本塁打と判定されました。この判断は両チームに受け入れられ、円滑な試合進行に貢献しました。

2015年6月2日のDeNA対ソフトバンク戦では、二塁塁審として、ソフトバンク柳田悠岐選手の放ったライナー性の打球が自身の足に当たってしまうというアクシデントが発生しました。これは公認野球規則上、ボールデッドとなり、打者走者に1個の安全進塁権が与えられるケースです。満塁であったため塁上の走者もそれぞれ1個進み、三塁走者の得点は認められましたが、本塁に達していた二塁走者は三塁へ戻されました。ソフトバンクの工藤公康監督は猛抗議しましたが、規則通りの判定が維持されました。渡田氏自身もこのプレーについて「当たった私が悪い」「避けきれなかった」と語り、35年の審判員生活で初めての経験だったと振り返っています。

現役引退とその後

2015年シーズン終了をもって、渡田氏は34年間にわたるプロ野球審判員としての現役生活にピリオドを打ちました。最終出場試合は同年10月6日、楽天Koboスタジアム宮城での楽天対ロッテ戦で、二塁塁審を務めました。

現役引退後も野球界への貢献は続き、2016年からは審判技術委員として、後進の指導や技術向上に尽力しました。

しかし、2020年7月6日、肺腺癌のため東京都内の自宅で逝去されました。享年62歳でした。ラグビー選手から転身し、長年にわたりプロ野球の発展に尽くした渡田均氏の功績は、野球史に深く刻まれています。

出場記録（一部）

初出場：1985年4月18日（ヤクルト対広島、明治神宮野球場、左翼線審）
出場試合数：2778試合（セ・リーグ 2418、パ・リーグ 147、交流戦 162、日本シリーズ 23、オールスター 9、クライマックスシリーズ 16、アジアシリーズ 3）
オールスターゲーム出場：5回（1990、1993、1997、2003、2010年）
日本シリーズ出場：5回（2003、2006、2007、2010、2012年）

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