渡辺津

渡辺津：古代から中世へ至る大阪の要衝

古来より、大阪湾は海上交通の要衝として栄えてきました。その中でも特に重要な港湾として知られるのが、摂津国にあった「渡辺津」です。現在の大阪市中心部、旧淀川の天満橋から天神橋にかけてのエリアに位置し、北船場一帯の入り江を中心とした地域が、その中心地でした。

渡辺津の役割：経済、宗教、軍事の拠点

渡辺津は、瀬戸内海と京を結ぶ水運の中継拠点として、大きな役割を果たしました。河川と海の船舶の積替えが行われ、淀川を渡る渡し場としても機能していました。単なる交通の要衝にとどまらず、宗教的にも重要な場所でした。京から四天王寺、住吉大社、熊野三山への参詣者は、淀川を船で遡り、渡辺津で上陸しました。熊野古道も、この渡辺津を起点としていたと言われています。

軍事面においても、渡辺津は重要な港湾でした。平安時代後期には、源綱（渡辺綱）が当地に居住し、渡辺氏を興しました。その子孫は、渡辺党と呼ばれる武士団へと発展し、水軍として全国に勢力を広げ、瀬戸内海を制圧しました。松浦氏をはじめとする多くの有力武士団が、渡辺氏の支族を称しました。豊臣氏の家臣であった摂津渡辺氏や、徳川氏の譜代家臣であった三河渡辺氏なども、渡辺氏の流れを汲むとされています。

坐摩神社と渡辺津の終焉

渡辺津には、坐摩神社（ざまじんじゃ）という有名な神社がありました。本殿は、渡辺津があった天神橋東南の渡辺町（現在の石町）にありました。しかし、豊臣秀吉が大坂城を築城した際、土着の有力者であった渡辺党の存在を排除するため、坐摩神社の移転を命じました。これにより、渡辺津の歴史は終焉を迎えます。坐摩神社は、現在の船場に移転しました。渡辺党もまた、大阪各地に移り住むこととなります。淀川南岸に住んでいた神官や武士、住民は船場の渡辺町に移転しましたが、北岸に住んでいた皮革職人や下級神官たちは、被差別民として扱われ、大坂周辺を転々とした後、木津村領内に渡辺村を形成し、皮革製造や火消しなどに携わるようになったとされています。

渡辺津の痕跡

現在の中之島を渡る四つ橋筋の橋は「渡辺橋」と呼ばれていますが、これは渡辺津の繁栄を記念して江戸時代に名付けられたものです。また、現在の大阪市中央区久太郎町にある「渡辺」という地名も、渡辺津に由来しています。この地名は、豊臣秀吉による移転によって本来の位置からは離れていますが、渡辺氏の子孫たちの尽力により、地名として残ることになりました。

まとめ

渡辺津は、古代から中世にかけて、経済、宗教、軍事の面で重要な役割を果たした、大阪における重要な港湾でした。その歴史は、地名や神社、氏族などに色濃く残っており、現在の大阪を考える上で重要な要素の一つとなっています。豊臣秀吉による大坂城築城によってその歴史は幕を閉じましたが、その影響は現在も大阪に残っています。 渡辺津の歴史を紐解くことは、大阪の歴史、ひいては日本の歴史を理解する上で欠かせない要素といえるでしょう。

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