渡辺綱

渡辺綱：平安の武将、その生涯と伝説

渡辺綱（わたなべ の つな）は、平安時代中期に活躍した武将です。嵯峨源氏の流れを汲み、源融の子孫にあたります。正式な名は源綱（みなもと の つな）といい、通称として渡辺源次とも呼ばれました。彼は、源頼光に仕えた「頼光四天王」の筆頭としてその名を馳せ、渡辺氏の祖としても知られています。

生い立ちと渡辺氏の祖へ

武蔵国（現在の東京都、埼玉県の一部を含む地域）で生まれた渡辺綱は、嵯峨源氏の源宛（みなもと の あつる）の遺腹の子でした。父の死後、清和[[源氏]]の源満仲の娘婿である源敦の養子となり、母方の実家がある摂津国（現在の大阪府北西部と兵庫県の一部）の渡辺に移り住みました。この地名にちなみ、渡辺綱、または渡辺源次綱と名乗り、渡辺氏を興しました。1020年には、主君である源頼光が摂津守に叙任されると、綱も丹後守に任命され、その功績が認められました。

子孫の活躍

渡辺綱の子孫たちは、様々な分野で活躍しました。次男の筒井久の直系の子孫は、内裏警護を担う滝口武士として重要な役割を果たしました。また、摂津[[源氏]]と主従関係を結び、源平合戦では平氏に対抗して奮戦しました。鎌倉時代には、綱と筒井久の直系の子孫である赤田氏と瓜生氏が越後国に定住し、南北朝時代には後醍醐天皇側として活躍しました。

一方、渡辺党と呼ばれる綱の子孫の一派は、摂津国を拠点とする武士団として、大阪湾一帯の海上勢力を統括しました。しかし、豊臣秀吉は渡辺党の勢力を警戒し、圧迫したため、一族の多くは大和国などの近隣地域に散り散りになりました。島根県大田市には、渡辺綱の子孫とされる一族がたたら製鉄で栄えた集落があり、そこには先祖代々を供養する慰霊塔が存在します。また、九州の水軍として知られる松浦党の祖である松浦久も、綱の曾孫であるとされています。

さらに、大阪市北区の梅田界隈にある太融寺や、露天神社（お初天神）、坐摩神社は、渡辺綱やその一族と深い関わりがあるとされています。これらの場所は、渡辺氏の歴史を物語る上で重要な意味を持っています。

墓所と伝承

渡辺綱の墓所としては、清和[[源氏]]ゆかりの兵庫県川西市の小童寺に霊廟が、また、島根県大田市の鬼村には墓碑である「宝篋印塔」が存在します。鬼村の墓碑は、もともと渡辺家の敷地内にありましたが、鉱山採掘による地盤沈下のため、現在の場所に移されました。

渡辺綱にまつわる伝承は数多く存在します。東京都港区三田の當光寺は、綱の生誕地であり晩年を過ごした場所であると伝えられ、寺の山号は「綱生山」と名付けられています。周辺には、「綱坂」や「綱の手引き坂」など、綱にゆかりのある地名が残っています。また、綱が産湯を使ったとされる「綱の井戸」が、綱町三井倶楽部周辺に数カ所存在します。

渡辺綱の伝説で最も有名なものの一つに、大江山の酒呑童子退治があります。この伝説では、源頼光が渡辺綱、坂田金時、碓井貞光、卜部季武を引き連れて大江山に赴き、酒呑童子一味を討ち滅ぼしました。また、京都の一条戻橋では、茨木童子の腕を切り落としたという逸話も有名で、この伝説は能の演目「羅生門」の題材にもなっています。

茨木童子との戦いの逸話から、鬼は渡辺姓の人間を渡辺綱の子孫だと恐れて逃げ出すとされており、節分には渡辺姓の人は豆まきをする必要がないという言い伝えがあります。

登場作品

渡辺綱は、様々な映画や漫画にも登場しています。

映画:

『羅生門』（1911年、横田商会） - 尾上松之助が演じた
『羅生門』（1941年、新興キネマ） - 羅門光三郎が演じた
『羅生門の妖鬼』（1956年、東映） - 東千代之介が演じた
『大江山酒天童子』（1960年、大映） - 勝新太郎が演じた
『妖怪大戦争 ガーディアンズ』（2021年、東宝、KADOKAWA） - 北村一輝が演じた

漫画:

『陸奥圓明流外伝 修羅の刻』（川原正敏）


渡辺綱は、武勇に優れた武将であるだけでなく、数々の伝説や逸話を持つ人物として、今もなお多くの人々に語り継がれています。

もう一度検索