渡辺範彦

渡辺範彦

渡辺 範彦（わたなべ のりひこ、1947年9月11日 - 2004年2月29日）は、日本を代表するクラシックギタリストの一人。特に1969年のパリ国際ギターコンクールでの満場一致による優勝は、国際的な名声を確立する決定的な出来事となった。

人物と来歴

1947年、宮崎県に生を受けた。8歳で初めてギターを手にし、幼い頃からその才能の片鱗を見せ始める。クラシックギターを月村嘉孝、松田晃演（旧名二朗）、久坂晴夫、真鍋理一郎といった名だたる師に師事し、技術と音楽性を磨いた。

若くして国内の主要なコンクールで頭角を現し、日本ギターコンクール（現在の東京国際ギターコンクール）では、1965年、1966年と2年連続で第2位に入賞する快挙を成し遂げた。これらの経験を経て、1967年6月29日には初のリサイタルを開催。その翌日には早くも初のレコード録音を行うなど、そのキャリアは順調に、かつ迅速に展開していった。

国際的な舞台での成功は、1969年の第11回パリ国際ギターコンクールでの出来事だった。渡辺は、審査員全員が一致して彼を優勝者とするという、非常に稀な、そして栄誉ある評価を獲得した。この優勝により、彼の名は世界に知られることとなった。翌1970年には同コンクールにゲストとして招かれ、これを機にヨーロッパ各地で演奏会を行い、国際的な演奏家としての地位を確固たるものにした。

国内外での演奏活動に加え、渡辺は教育者としても大きな足跡を残した。1975年からはNHKのテレビ番組『ギターを弾こう』の講師を務め、多くのギター愛好家や後にプロとなる世代への指導に情熱を注いだ。その丁寧で的確な指導は、多くの人々にクラシックギターの魅力を伝え、日本のギター界の発展に貢献した。

しかし、1980年代に入ると、徐々に演奏活動から距離を置くようになる。そして、2004年2月29日、肺癌のため惜しまれながら56歳で死去した。

演奏の特徴

渡辺範彦は、デビューの時点ですでに完成された技巧と深い音楽性を兼ね備えた、類稀なる「天才肌」の演奏家であったと評される。彼の演奏は技術的に非の打ち所がなく、同時に音楽の深淵に迫る表現力を持っていた。

その一方で、彼は極めて厳格な「完全主義者」としても知られていた。レパートリーの選択には非常に厳しく、自身が完全に消化し、納得のいくレベルに達したものだけを演奏会や録音で披露した。このため、彼の公開されたレパートリーは必ずしも膨大ではなかったが、一つ一つの演奏には比類なき完成度が宿っていた。

彼のスタジオ録音は、驚異的なことに、そのほとんどが一回の演奏（ワン・テイク）で完了したと伝えられている。また、ライブ録音においても、レコード化する際に編集作業がほとんど不要なほど完璧な演奏を披露したという逸話が残っており、その集中力と技術力の高さがうかがえる。

没後の評価と音源復刻

渡辺範彦の死去後も、彼の残した音源は多くのギターファンによって聴き継がれた。特に、2006年には彼が1971年に成蹊大学で行ったリサイタルのライブ音源がCDとして復刻され、その鮮烈な演奏が若い世代のギター愛好家の間でも大きな評判を呼んだ。翌2007年2月にも音源復刻が続いた。

さらに、2010年4月には、遺族の深い尽力により、彼のキャリアの頂点である第11回パリ国際ギター・コンクール本選での歴史的な演奏を含む、パリでのライブ録音集が新たに発売された。これらの音源復刻は、渡辺範彦という偉大なギタリストの存在を再認識させ、その芸術に触れる機会を後世に残す上で極めて重要な意味を持った。

ディスコグラフィー

渡辺範彦が生前にリリースした主要なアナログレコードおよび、没後に復刻・発売されたCDの一部を以下に記す（タイトルは初発売時のものに準拠）。

アナログレコード

『渡辺範彦－珠玉のギター小品集』 日本コロムビア (1970年)
『新演奏家シリーズ＜２＞渡辺範彦ギター・リサイタル』 日本コロムビア (1970年)
『渡辺範彦ギターリサイタル』 RVCビクター (1977年)
『モーツァルトの魔笛の主題による変奏曲』 RVCビクター (1979年)
『ソル 24の練習曲』 RVCビクター (1979年)
『ギター・メルヘン・コンサート』 RVCビクター (1980年)
『渡辺範彦ギター・リサイタル・ライブ』（収録は1968年） 日本コロムビア (1981年)

CD

『渡辺範彦の芸術』 山野楽器 (1998年)
『幻のライブ』（収録は1971年） 現代ギター社 (2006年)
『デビュー！』（『渡辺範彦－珠玉のギター小品集』と同内容） 現代ギター社 (2007年)
『渡辺範彦＝ギター　パリ・ライヴ録音集～コンクール & リサイタル1969,70&76』 クヮルテット・ハウス・ジャパン / 渡辺範彦メモリアル (2010年)

関連人物

アンドレス・セゴビア: 渡辺範彦が深く敬愛していたスペインの伝説的ギタリスト。セゴビア自身も、渡辺が優勝したパリ国際ギターコンクールに姿を見せ、その才能を目の当たりにしていたと言われている。

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