湊博昭

湊 博昭（みなと ひろあき、1948年3月7日 - 2006年10月3日）は、日本の医学者であり、精神科医でした。特に社会精神医学を専門分野とし、青年期の精神医学、なかでも学生が無気力状態に陥るスチューデント・アパシーに関する臨床研究に力を注ぎました。現代の若者が抱える心の悩みや危機に対し、深い理解と支援の手を差し伸べたことで知られています。

徳島県に生まれた湊氏は、大阪府立天王寺高等学校を卒業後、1973年に東京大学医学部を卒業しました。医師としての第一歩は、八王子医療刑務所に法務技官として勤務したことから始まります。その後、東京大学の保健管理センターで助手を務め、大学における学生の精神的な健康管理という分野に関わるようになりました。

1989年には一橋大学に移り、保健管理センターの助教授と社会学部の助教授を兼任。2000年からは同センターの教授として、さらには保健管理センター長として、大学全体の精神衛生を支える立場となりました。一橋大学では教育者としても多くの学生と関わり、そのゼミからは漫画家の倉田真由美氏や黒田硫黄氏、ジャーナリストの安田純平氏など、多方面で活躍する人々が巣立っています。また、一橋大学での職務に加え、東京大学（駒場および本郷）、東京工業大学、中央大学といった他の大学でも非常勤講師として、学生たちの診察にあたりました。

湊氏の研究は、青年期特有の精神的問題に広く及びました。スチューデント・アパシーのほか、問題飲酒の症例、留年生への対応、電子メールを用いた治療的関与の試み、母親の病と女子学生の関連、精神病者との友人関係、自殺に関する意識調査（SOQ）、性的外傷体験、軽い依存症、文系大学院生の問題など、様々な角度から大学精神医学の課題を探求し、その成果を学会報告や論文として発表しました。

医師としての姿勢は、患者に対するひたむきな誠実さが際立っていました。その医療に対する真摯な態度は、当時の人気ドラマ『白い巨塔』に登場する、倫理観の高い医師・里見脩二になぞらえられるほどでした。東京大学医学部時代には全共闘運動に関わるなど、反骨精神も持ち合わせていましたが、医師としての卓越した能力と患者への共感力は、アカデミックな経歴を超えて高く評価されていました。大学での診察に加え、週末には東京都内の精神科病院で長年にわたり診療を続け、ここでも多くの患者から厚い信頼を得ていました。大学を卒業した後も、かつて診察した患者のケアを継続するなど、その医療への情熱は生涯衰えることがありませんでした。

晩年には体調を崩し、2006年3月には一橋大学での講義や演習の担当を辞任しましたが、保健センターでの診察は続けました。しかし、同年10月3日、58歳という若さで脳出血により倒れ、その後に肝不全のため急逝しました。一橋大学保健管理センター教授のポストにあった人物が、前任者である稲村博氏に続いて、定年を待たずに亡くなるという予期せぬ出来事が続きました。

湊博昭氏が日本の大学精神医学、特に青年期精神医学分野に残した功績は大きく、彼が若者の心の健康のために注いだ努力と誠実な医療実践は、今もなお多くの人々に記憶されています。主な編著には、『20代の心理と病理 ヤングアダルトをどう理解するか』（千曲秀版社、1986年）があります。

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