満願 (米澤穂信)

満願（まんがん）

米澤穂信の『満願』は、2014年に新潮社から発表された推理小説の短編集で、独自の切り口から人間の内面を掘り下げた作品です。この本は短編それぞれが異なる事件を中心に展開しつつ、共通するテーマである人間の欲望や運命の交錯を描いています。特に、登場人物たちの心理や選択が、物語を通じて巧みに絡み合う様子が読者に強い印象を与えます。

内容概要

短編集は以下の五編から成り立っています。

1. 夜警

物語は警官の葬儀から始まります。川藤浩の短い生涯が終わった後、彼の上司、柳岡巡査部長は振り返ります。川藤は、突発的な行動や自身の失敗を小細工で隠そうとするタイプの警官で、結局は自らの命を犠牲にすることになります。彼の死の真相やその背後に潜む真実が明らかになる過程で、警察という組織内の様々な問題が浮かび上がります。

2. 死人宿

失踪した佐和子を巡る物語で、彼女を探しに山奥にある温泉宿へ向かう主人公の後悔と懺悔が主なテーマです。彼女が遺書とともに助けを求めていたことを知った主人公は、遺書の持ち主を特定するため奔走します。温泉宿は自殺の名所として知られ、彼女の過去が明らかになるにつれ、主人公はその真相を解き明かさねばならなくなります。

3. 柘榴

美しい母と魅力的な父をもつ二人の娘の成長を描くこの短編は、母さおりが父成海との結婚を決意するところから始まります。しかし、成海の無能さと父の言葉が現実となるにつれ、さおりは離婚を決意します。裁判を通じて、親権を巡る意外な結末が待ち受けています。

4. 万灯

伊丹修平は商社で働き、バングラデシュでの天然ガス資源開発に情熱を注いでいます。しかし、土地の長老・アラムとの交渉が難航し、思わぬ方向へと事態が進展します。アラムの排除を求める圧力の中、伊丹は苦悩しながら選ぶべき道を模索することになります。

5. 関守

都市伝説に関する記事を書くライターである主人公は、伊豆半島の「死を呼ぶ峠」にまつわる事故の真相を追うことになります。峠での事故の背後には不気味な噂があり、調査を進めるうちに恐ろしい真実が浮かび上がります。

結論

こうした短編群は、それぞれ独立した物語でありながら、同時に人間の欲望や運命の重厚な描写を共有しています。特に、『満願』というタイトルが示すように、登場人物たちの願望や選択がもたらす結果とその影響は、物語全体に深い印象を持たせています。作品は様々な文学賞を受賞し、高い評価を得ており、2018年にはテレビドラマ化され、さらなる注目を集めました。このように、米澤穂信の独自の視点と優れたストーリーテリングが、読者に難解さと同時に深い理解を促させる作品となっています。

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