源氏物語年紀考

『源氏物語年紀考』：光源氏と薫の年齢に迫る、本居宣長の注釈書

『源氏物語年紀考』は、日本の国学の巨匠、本居宣長による『源氏物語』の注釈書です。この作品は、単なる注釈にとどまらず、『源氏物語』の登場人物、特に光源氏と薫の年齢を詳細に考察したもので、それまでの解釈を大きく塗り替えるものとなりました。

成立の経緯と特徴

『源氏物語年紀考』は、注釈付きの『源氏物語』版本である『源氏物語湖月抄』の「首巻」に収録されていた、一条兼良による年立（登場人物の年齢を示す表）を基に、宣長が自らの見解を書き加えることから生まれました。宣長は、従来の一条兼良の説（旧年立）を全面的に見直し、独自の年立（新年立）を提唱しました。

本書の大きな特徴は、文章による記述に加えて、「改め正したる年立の図」と題された表形式の年立図を掲載している点です。これにより、視覚的にも理解しやすい構成となっており、それまでの『源氏物語』年立に関する研究文書と一線を画しています。箇条書きと図表を組み合わせた構成は、後の研究にも大きな影響を与えました。

成立時期と改訂

『源氏物語年紀考』の成立時期は、宝暦13年（1763年）頃と推定されています。これは、宣長が「清原」姓を使用していた時期と、宣長の著作『紫文要領』における記述から推測されています。『紫文要領』では、年立に関する記述において「『年紀考』を見よ」と記されており、このことから『紫文要領』の成立よりやや前の時期に『源氏物語年紀考』が完成したと考えられています。

宣長はその後も『源氏物語年紀考』を改訂し続け、最終的には『源氏物語玉の小櫛』の第3巻に収録された「改め正したる年立の図」へと発展させました。この改訂によって、宣長の『源氏物語』理解の深まりと、年立に関する考察の精緻化が見て取れます。

研究史における位置づけ

『源氏物語年紀考』は、『源氏物語』研究において極めて重要な位置を占めています。宣長の独自な考察は、それまでの解釈に新たな視点を与え、後の研究者にも大きな影響を与えました。現在でも、この作品は『源氏物語』の年立を議論する際には必ず参照される文献であり、その学術的価値は高く評価されています。

主な刊行物

『源氏物語年紀考』は、複数の全集に収録されています。主なものとしては以下のものがあります。

本居豊穎校訂『本居全集　第5』（片野東四郎、1902年）
本居豊穎校訂本居清造再校『増補　本居全集　第7』（吉川弘文館、1927年）
大久保正・大野晋編集校訂『本居宣長全集 第4巻』（筑摩書房、1969年）
秋山虔監修『批評集成・源氏物語　第1巻　近世前期篇』（ゆまに書房、1999年）

これらの刊行物を通して、『源氏物語年紀考』は現代の研究者にも広くアクセス可能なものとなっています。

参考文献

伊井春樹編『源氏物語　注釈書・享受史事典』（東京堂出版、2001年）
本居宣長記念館編『本居宣長事典』（東京堂出版、2001年）

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