源氏系図小鏡

源氏系図小鏡：源氏物語人物関係の系図書

源氏系図小鏡は、平安時代に編纂された源氏物語に関する系図書です。古系図に分類され、源氏物語の登場人物たちの複雑な血縁関係を詳細に記述している点が大きな特徴です。特に、源氏物語の登場人物である「巣守」に関連する記述が豊富に含まれており、その関係性を解明する上で重要な資料となっています。

詳細な血縁関係の記述

この系図書は、登場人物間の血縁関係を網羅的に記述している点が注目に値します。「とぞ」「という」といった、伝聞を意味する表現が多く用いられており、これは源氏物語本文を直接参照するのではなく、他の系図書や注釈書などを参考に作成された可能性を示唆しています。

例えば、浮舟の生涯における記述では、源氏物語本文には登場しない「山路の露」という後世の補作における出来事を、あたかも本文中の出来事であるかのように記している箇所があります。これは、作成当時において「山路の露」が広く知られた物語として認識されていたか、もしくは、作成者が「山路の露」の記述を源氏物語の物語世界の一部として捉えていた可能性を示しています。

他の系図書との比較

源氏系図小鏡の記述は、他の源氏物語系図書と比較すると、いくつかの点で興味深い違いが見られます。例えば、蛍兵部卿宮の子である侍従と源三位を同一人物として扱っている点や、巣守三位が大内山に隠棲する際に頼った朱雀帝の女四宮に関する記述が詳細である点、薫と巣守三位の子を「若宮」と表記している点などが挙げられます。これらの記述は、源氏物語の注釈書である『源氏物語巨細』や国文学研究資料館所蔵の『国文研本』に近い一方で、『正嘉本古系図』とは異なる部分が多いことが確認できます。

多様な伝本と翻刻

現存する源氏系図小鏡の伝本は複数あり、それぞれに表題や内容に違いが見られます。代表的なものとして、稲賀敬二蔵本（「源氏小鏡」）、京都大学文学部蔵本（「源氏系図小鏡」）、東京学芸大学脇本文庫蔵本（「源氏物語注」）、篁園文庫蔵本（「げんじのいけいづ付むらさきしきぶのけいづ」）、東海大学桃園文庫蔵本（「源氏物語中の人々」）、早稲田大学図書館蔵本（「源氏抄」）、内閣文庫蔵本などがあります。「源氏抄」は「源氏物語起筆伝説」などを加えた異本として知られています。

これらの伝本は、稲賀敬二氏らによって翻刻され、研究に役立てられています。稲賀敬二氏の翻刻は、『中世文芸』や『源氏物語の研究 成立と伝流』などに掲載されています。また、中野幸一氏による「源氏抄」の翻刻も『国文学研究』や『物語文学論攷』で発表されています。

研究上の意義

源氏系図小鏡は、平安時代の物語受容の一端を垣間見ることができる貴重な資料です。系図を通して、当時の読者たちが源氏物語をどのように理解し、解釈していたのかを知る手がかりを与えてくれます。また、複数の伝本が存在することから、系図書の成立過程や伝播過程を考察する上でも重要な資料と言えます。源氏物語研究において、今後更なる研究が期待される資料の一つです。

参考文献

稲賀敬二「「源氏系図小鏡」解題」『中世文芸』通号第25号、広島中世文芸研究会、1962年
伊井春樹編『源氏物語　注釈書・享受史事典』東京堂出版、2001年

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