源氏雑乱抄

源氏雑乱抄：室町時代の源氏物語注釈書

概要

『源氏雑乱抄』は、室町時代の歌人・宗祇によって著された『源氏物語』の注釈書です。文明13年（1481年）9月以降に成立したと考えられており、宗祇が先に著した『種玉編次抄』を土台に、さらに自身の考察を加え、三条西実隆への献呈後に完成したと考えられています。

本書の前半部は、『種玉編次抄』の内容をほぼそのまま収録しています。後半部には、三条西実隆が『種玉編次抄』を読んだ感想や批評である「宇治昇進雑乱」が収められています。そのため、『源氏雑乱抄』は『種玉編次抄』の異本と見なされることも少なくありません。

書名と内容

書名の「源氏雑乱抄」は、「源氏物語」における年代記述（年立）の混乱を注釈した書であることを示しています。多くの伝本では「源氏雑乱抄」と記されていますが、内題は「源氏雑乱之鈔」とされ、「宗祇註之」と記されている場合も多いです。「抄」の字は「鈔」とされる場合もあります。

本書は、『源氏物語』の年立を巡る様々な解釈や議論をまとめたもので、宗祇自身の深い理解と鋭い洞察が反映されています。単なる注釈書にとどまらず、当時の源氏物語研究の状況や、宗祇自身の文学観を知る上で重要な資料となっています。特に、後半部の三条西実隆による批評は、当時の貴族社会における源氏物語の受容状況を知る上で貴重な情報源となっています。

伝本

『源氏雑乱抄』の現存する伝本は非常に少なく、確認されているのは以下の通りです。

東北大学図書館蔵本
小松島公民館本
吉永文庫本
狩野文庫本（外題「源秘抄」）

これらの伝本は、それぞれに特徴を持つ可能性があり、今後さらなる調査研究が必要とされています。現存する伝本の少なさから、本書の貴重な歴史的価値がわかります。

歴史的意義

『源氏雑乱抄』は、室町時代の『源氏物語』研究を理解する上で非常に重要な資料です。宗祇は『源氏物語』を深く理解しており、その注釈は正確で緻密です。『種玉編次抄』と三条西実隆の批評を組み合わせた構成も、当時の文学的風土を反映した独特のものです。

また、本書は、単なる注釈書としてだけでなく、当時の貴族社会における『源氏物語』の受容や解釈、そして文学批評の方法論を知る上でも貴重な資料となります。限られた伝本から、本書の研究は今後の発展が期待されます。

参考文献

伊井春樹「兼良から宗祇の年立へ -『種玉編次抄』の成立-」『源氏物語注釈史の研究 室町前期』桜楓社、1980年（昭和55年）11月、pp. 243-275。

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