種玉編次抄

種玉編次抄：宗祇による源氏物語注釈

はじめに

『種玉編次抄』は、室町時代の著名な連歌師である宗祇が著した『源氏物語』の注釈書です。本書は、物語の成立年代や巻の順序（年立）を考察したもので、宗祇の源氏物語理解の一端を示す貴重な資料となっています。

書名と成立

『種玉編次抄』という書名は、宮内庁書陵部蔵本（桂宮本）など多くの写本で用いられていますが、『源語編次抄』、『源氏雑乱抄』、『源氏物語宗祇抄』といった異名も存在します。また、「抄」の字は「鈔」と表記される場合もあります。

本書は、匂宮巻から椎本巻までの5巻を扱う第一次本と、宿木巻まで含む第二次本が存在することが分かっています。最古の部分は1475年（文明7年）12月成立と推定されます。

宮内庁書陵部所蔵の桂宮本には、三条西実隆による奥書があり、その記述によると、1481年（文明13年）、宗祇が実隆に源氏物語の講義を行った際に、巻の順序の混乱について質問された宗祇が、「書き留めたものがある」として後日写本を持参したことが本書の成立経緯として記されています。

宗祇は他にも『源氏物語不審抄出』（1499年（明応8年）成立と推定）など源氏物語に関する著作を残していますが、『種玉編次抄』はそれらに先立つ、宗祇による最初の源氏物語注釈書と考えられています。

内容

『種玉編次抄』の中心的なテーマは、『源氏物語』の年立です。本書は、一条兼良による従来の年立（旧年立）を踏まえつつ、宗祇独自の解釈を付け加えています。

特に、年立に関して議論の分かれる箇所を抽出し、詳細な注釈を施しています。『河海抄』や『花鳥余情』といった先行する注釈書の説も引用することで、文脈に沿った理解を促しています。

注目すべき点として、匂宮巻以降の年立と巻序に関する考察があります。薫の官位変化と物語の時間進行を照らし合わせることで、従来の巻序では薫の官位に矛盾が生じる点を指摘し、巻序の入れ替えを提唱しています。作品内部の記述から、薫の官位が一度上昇した後、下降したという解釈には不自然な点があるとして、巻の順序を再考すべきだと主張している点が興味深いです。

翻刻本

『種玉編次抄』は、いくつかの翻刻本が出版されています。代表的なものとして、以下のものがあげられます。

「種玉編次抄」『増補 国語国文学研究資料大成3 源氏物語』上、三省堂
中野幸一編『源氏物語古註釈叢刊 第4巻 明星抄・種玉編次抄・雨夜談抄』武蔵野書院

まとめ

『種玉編次抄』は、宗祇の源氏物語解釈を知る上で重要な資料です。旧来の年立を踏まえつつ、独自の視点から考察を加えた本書は、後の源氏物語研究にも影響を与えたと考えられます。先行研究を踏まえ、独自の解釈を展開する宗祇の学識と、巻の順序や年立という難解な問題に挑む姿勢は、現代の研究者にとっても示唆に富むものです。本書を通して、室町時代の源氏物語受容の一端を垣間見ることができるでしょう。

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