溝部惟幾

溝部惟幾（みぞべ いいく）は、1857年に長門国阿武郡萩江向村（現在の山口県萩市）で、長州藩士の家に生まれました。彼は慶應義塾で学び、その後、官僚としての道を歩み始めます。

1883年7月、溝部は静岡県立静岡中学校の一等教諭兼県立静岡師範学校の一等教諭に就任し、1884年3月まで務めました。その後、1885年6月に内務省に入省し、内務省御用掛・総務局第三部翻訳課に配属されました。翌1886年3月には内務属に任官し、同年11月には島根県書記官に就任しました。その後、島根県第二部長、福井県書記官・内務部長などを歴任し、着実にキャリアを積み重ねていきました。

1899年1月、溝部は栃木県知事に就任します。知事として、彼は県政の運営に尽力しますが、その中で、廃娼論者の多い県会の反対を押し切り、遊廓を拡大する内容の「遊廓設置規則」を内務大臣の訓令を受けて公布しました。この決定は、当時の社会情勢や倫理観を背景に、大きな議論を呼びました。

1902年9月、栃木県を襲った大暴風の際には、溝部は救済活動に尽力しました。しかし、同年12月、教科書疑獄事件に連座した容疑で逮捕され、同月30日、知事を休職することになります。重禁固四ヶ月の求刑中に病に倒れ、獄中でその生涯を終えました。1901年6月27日には、勲四等瑞宝章を受章しています。

溝部惟幾は、激動の明治時代において、教育者、官僚、そして知事として様々な役割を担いました。彼の生涯は、当時の社会構造や政治状況を映し出す鏡であり、その功績と波乱に満ちた人生は、後世に多くの教訓と考察の余地を与えています。

参考文献

歴代知事編纂会編『新編日本の歴代知事』歴代知事編纂会、1991年。
秦郁彦編『日本官僚制総合事典：1868 - 2000』東京大学出版会、2001年。
大植四郎編『明治過去帳』新訂初版、東京美術、1971年（原著私家版1935年）。
『栃木県歴史人物事典』下野新聞社、1995年。
内閣「内務属溝部惟幾島根県書記官ニ被任ノ件」明治19年。国立公文書館 請求番号：本館-2A-018-00・任Ａ00112100
森鴎外『渋江抽斎』その百二

もう一度検索