溶融塩電池

溶融塩電池：高温で稼働する長寿命電池

溶融塩電池は、その名の通り溶融した塩を電解質として用いる化学電池です。室温では固体で非導電性である無機塩が、加熱によって溶融しイオン伝導性を示すことで電池として機能します。この特性から、熱電池とも呼ばれています。

長期保存と即時起動

最大の特長は、室温では電解質が固体であるため、正極と負極の活物質が反応せず、自然放電を抑制できる点です。そのため、10年以上もの長期保存が可能であり、いざという時に備えて備蓄しておくのに適しています。使用時には、電解質を加熱して溶融させることで電池が活性化し、10分から1時間程度の放電が可能です。溶融塩が冷えて固まると作動は停止します。この即時起動性と長寿命性は、緊急時の電源として理想的です。

溶融塩電池の歴史と構造

溶融塩電池は、第二次世界大戦中にドイツでV2ロケットの電源として開発されました。初期の電池では、ロケットエンジンの排熱を利用して電解質を溶融状態に保っていました。

電池の構造は、アルカリ金属やアルカリ土類金属を負極、金属塩を正極、そして塩化リチウム・塩化カリウムなどの共融混合物を電解質として用います。負極活物質には、初期はカルシウムが多く使われていましたが、近年はリチウムが主流となっています。正極活物質も、初期の三酸化タングステンからクロム酸カルシウム、そして現在の二硫化鉄や二硫化コバルトへと進化しています。

電解質の溶融には、初期はロケットエンジンの排熱を利用していましたが、現在では熱紙と熱ペレットと呼ばれる火工品が使用されています。熱紙はジルコニウムとバリウム・クロム酸塩の混合物を紙状にしたもので、熱ペレットは鉄の微粉末と過塩素酸カリウムの混合物をペレット状にしたものです。熱紙は着火剤として用いられ、熱ペレットが主な熱源となります。

ゼブラバッテリー：充電可能な溶融塩電池

ゼブラバッテリーは、二次電池として利用可能な溶融塩電池です。テトラクロロアルミン酸ナトリウムを電解質、融解ナトリウムを負極、ニッケルを正極として使用し、約250℃で動作します。

1985年に南アフリカで発明されたこの電池は、150 W/kgの高出力密度と、毎時90 W/kgの高出力を誇ります。液体電解質は157℃で凝固するため、通常は270～350℃で運用され、保温が必要です。しかし、実用規模の電池では1500サイクル以上の寿命、5年間以上の運転実績があり、電気自動車への応用が期待されています。日本では昭和飛行機工業がゼブラバッテリー搭載の電気自動車を製造販売しています。

応用と将来展望

溶融塩電池の高い信頼性と長寿命性は、ミサイル、魚雷、ロケット、航空機の緊急脱出装置など、信頼性が極めて重要な用途に最適です。ゼブラバッテリーのような二次電池の開発が進めば、電気自動車をはじめとした様々な分野での応用が期待できます。ただし、高温での運用や保温が必要な点は、今後の課題と言えるでしょう。

もう一度検索