溶解度積

溶解度積：難溶性塩の溶解度と沈殿条件

溶解度積（ようかいどせき、英: solubility product）とは、水に溶けにくい難溶性塩が、水に溶けている状態（飽和溶液）における、陽イオンと陰イオンの濃度の積です。濃度溶解度積（のうどようかいどせき、英: concentration solubility product）と呼ばれることもあります。かつてはKspと表記されることが多かったですが、近年ではKsolと表記されることも増えています。これは、英語のsolubility productの頭文字に由来します。

溶解度積は温度によって決まる定数で、ある物質が水溶液中で沈殿するかどうかを判断する上で非常に重要な指標となります。溶液中のイオン濃度の積が溶解度積を超えた場合、その物質は沈殿し始めます。

溶解度積の導出

陽イオンP+と陰イオンQ−からなる難溶性塩PmQnを例に、溶解度積の導出過程を説明します。PmQnは水中で以下の平衡状態にあります。


P_mQ_n ⟺ mP^(+) + nQ^(-)


この平衡状態における平衡定数Kcは、次のように表せます。


Kc = ([P^(+)]^m[Q^(-)]^n) / [P_mQ_n]


ここで、難溶性塩の場合、[P_mQ_n] はほぼ一定値であるため、Kcと[P_mQ_n]の積も定数となります。この定数をKsp（溶解度積）と定義します。


Ksp(P_mQ_n) = [P^(+)]^m[Q^(-)]^n


この式から、あるイオンの濃度が分かれば、もう一方のイオンの濃度を求めることができます。

溶解度積の求め方

溶解度積を求める方法の一つに、化学熱力学の式を用いる方法があります。


ΔG° = -RTlnKsp


ここで、ΔG°は標準反応ギブズ自由エネルギー、Rは気体定数、Tは絶対温度です。難溶性塩の場合、重量測定による溶解度の算出が困難なため、この式を用いて、標準反応ギブズ自由エネルギー（または標準電極電位）からKspを間接的に求めることが一般的です。

熱力学的溶解度積

熱力学的溶解度積（英: thermodynamic solubility product）は、溶液中のイオンの活量を用いて定義されます。活量とは、溶液中のイオンの有効濃度を表す尺度です。熱力学的溶解度積は、イオン間の相互作用などを考慮したより厳密な溶解度積であり、通常Kspと表記されます。


Ksp(P_mQ_n) = a(P^(+))^m a(Q^(-))^n


ここで、a(P^(+))とa(Q^(-))はそれぞれ陽イオンと陰イオンの活量です。熱力学的溶解度積は、温度と塩の種類によって決まる定数です。ただし、溶解度が高い塩や、水溶液中で完全電離しない塩では一定値を示しません。

熱力学的溶解度積と濃度溶解度積の関係は、平均活量係数γ±を用いて次のように表せます。


Ksp(P_mQ_n) = Ksp(P_mQ_n) γ±^2

溶解度との関係

難溶性塩MmXnの溶解度Sと溶解度積Kspの間には、以下の関係があります。


S = (Ksp(M_mX_n) / (m^m n^n))^(1/(m+n))


この式から分かるように、異なるイオン価を持つ難溶性塩の溶解度を、溶解度積の値のみから直接比較することはできません。

代表的な溶解度積

25℃の水に対するいくつかの難溶性塩の溶解度積の値を表にまとめます。（具体的な数値は省略）

関連項目

溶解度

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