溺れ谷 (松本清張)

溺れ谷

松本清張の長編小説「溺れ谷」は、経済の裏側や社会の腐敗を鮮やかに描いた作品です。この物語は、1964年から1965年にかけて『小説新潮』に連載され、その後1966年に新潮社から単行本として発刊されました。また、1983年にはテレビドラマとしても映像化され、幅広い人気を博しました。

あらすじ

物語の主人公は、大屋圭造という三流経済雑誌の記者です。彼は忘却の彼方にある名女優、竜田香具子に目を付け、亜細亜製糖の社長である古川恭太との対談を提案します。この対談が大成功を収めたことをきっかけに、大屋は精糖業界の動向を探るため、香具子と古川の再会を計画します。女優としての復活を目指す香具子は古川からの支援を期待して、彼の提案に応じます。

しかし、計画は意外な方向へ進展します。大屋は香具子を見送った後、同業者の藤岡真佐子と出会い、彼女から京都で鶴田甚三郎という人物を紹介されます。この男は砂糖業界に精通しており、大屋は彼を通じて古川の動向を探ることになります。大屋は古川が農林大臣の是枝平之輔と密会していることに気づき、彼の行動に興味を持ちます。それに伴い、古川と鶴田の関係も疑い始め、物語は一層緊迫した展開を見せることとなります。

大屋は是枝との接触を試みますが、逆に脅迫を受け、さらに失敗を重ねます。それでも彼は探偵としての使命感から、是枝の汚職と鶴田の正体を暴こうと続けます。やがて大屋は、真佐子と再会し、彼女の持つ秘密にも迫っていくことになります。

主な登場人物

• - 大屋圭造: 三流経済雑誌「政経路線」の編集部次長。主に経営者向けの広告記事を執筆する日々を送っています。
• - 藤岡真佐子: 大屋の同業者で、以前同じ雑誌社に所属していました。腕の立つ記者です。
• - 古川恭太: 亜細亜製糖の社長で、新興企業として精糖業界に君臨しようとしています。
• - 竜田香具子: 世田谷に住む元女優で、復帰を目指しています。
• - 鶴田甚三郎: 京都在住の男で、アルコール中毒者です。
• - 是枝平之輔: 農林大臣であり、政治家として強い権力を持っています。
• - 矢口: 東京地検特捜部の検事で、物語のキーとなる人物。

エピソードと背景

本作は、松本清張が精糖業界の実態を作品に取り入れるきっかけとなった出来事が存在します。著者は刊行後半年以内に「共和製糖グループ」なる企業が不正な融資を受けていた事実に気づき、それをモチーフに小説を執筆したと述べています。また、推理小説研究家の山前譲は、「溺れ谷」とその後発表された「中央流沙」が表裏一体の作品であると指摘しています。

作中では、経済の利害と個々の葛藤が複雑に絡み合っており、それを背景に緻密に描かれた人物たちの心理描写が光ります。特に、大屋圭造の成長や彼が直面する社会的な壁は、読み手に強いメッセージを伝えてきます。

テレビドラマ

1983年には、「土曜ワイド劇場」の特番として「松本清張の溺れ谷」が放送されました。このドラマは、原作の魅力を活かしつつ、視聴者に新たな視点を提供しました。

結論

「溺れ谷」は、松本清張の推理小説の中でも特に経済の裏側を描いた作品として有名です。社会の暗い面を浮き彫りにし、同時に真実探求の難しさや厳しさを描いたこの物語は、多くの読者に深い印象を残しています。

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