滋賀銀行9億円横領事件

滋賀銀行9億円横領事件：高度経済成長期の影と女性の悲劇

1966年11月から1973年2月にかけて、滋賀銀行山科支店（当時京都府京都市山科区）で発生した女子行員Oと愛人Yによる巨額横領事件は、日本の高度経済成長期という時代背景を反映した、センセーショナルな事件でした。

事件の概要

滋賀銀行山科支店で働くOは、着服した資金のほとんどを下関市在住の愛人Yに貢いでいました。Yは、その資金をギャンブルや豪邸の購入などに浪費し、事件発覚後はOを捨て去ります。このため、Oは主犯にもかかわらず、横領金のほとんどを使用しておらず、世間の同情を集めました。Oの名前は、男性に貢ぐ女性の代名詞として知られるようになり、銀行のずさんな管理体制も批判を浴びました。横領額は8億9420万3667円に及び、当時の価値で30億円に相当する巨額でした。この事件は、戦後の女性の社会進出、高度経済成長期の拝金主義、そして女性の結婚難といった複雑な社会情勢を背景に発生しました。

犯人たちの経歴

O（女子行員）

Oは1930年、大阪府生まれ。一家は京都に移住しますが、複雑な家庭環境の中で育ちました。京都市立堀川高等女学校を卒業後、滋賀銀行に入行。預金係として勤務し、その能力の高さから「定期預金の神様」と呼ばれるほどでした。1965年、Yと出会い、交際を始めます。当初はYへの金銭援助は交際費の範囲でしたが、次第にYの競艇への借金などを肩代わりするようになり、やがて横領に手を染めます。1972年には女子行員として唯一の事務決裁者となり、犯行を容易にしました。1973年2月、東山支店への異動を機に不正が発覚し、逃亡します。

Y（愛人）

Yは1940年、朝鮮半島ソウル市生まれ。終戦後、下関市に移住し、競艇にのめり込みます。様々な職を転々とし、無許可タクシー運転手として検挙された経験もあります。1965年、京都でタクシー運転手としてOと出会い、交際を始めます。YはOから横領金を騙し取り、競艇や私生活の浪費に充て、豪邸を構えるまでに至りました。事件発覚後も、Oとの共犯関係を否定し続けました。

事件の経緯

OとYの出会いをきっかけに、OはYの要求に応える形で横領を開始します。当初は顧客の預金から着服していましたが、後に架空預金やコンピュータへの不正入力なども行うようになりました。Oは巧妙な偽造技術と、銀行内部の信頼関係を利用して犯行を続けました。横領資金はYの浪費に充てられ、Y一族にも流出しました。Oは1973年2月、異動を機に不正が発覚し、逃亡。その後、大阪で偽名を使いながら潜伏生活を送っていました。

捜査と逮捕

銀行側はOの逃亡を知り、警察に通報。警察はYの存在に着目し、その豪奢な生活から事件への関与を疑いました。Yの逮捕後、Yから得られた情報をもとにOの潜伏場所を突き止め、逮捕に成功しました。Oは逮捕後、犯行を自供しました。

裁判と判決

1973年12月、大津地方裁判所で初公判が開かれました。Oは共謀を除き、起訴事実をほぼ認めましたが、Yは無罪を主張しました。1976年6月、Oは懲役8年、Yは懲役10年の実刑判決を受けました。裁判では銀行のずさんな管理体制も批判されました。

事件の波紋

この事件は社会に大きな衝撃を与え、多くの報道や書籍、映画、ドラマの題材となりました。Oへの同情とYへの非難が入り混じる世間の反応は、高度経済成長期における女性の生きづらさや、男性中心社会への批判を反映していると言えるでしょう。また、銀行の内部管理体制の見直しを促すきっかけにもなりました。

結論

滋賀銀行9億円横領事件は、高度経済成長期の社会問題と、女性の置かれた状況を浮き彫りにした事件でした。この事件は、単なる横領事件としてだけでなく、時代の変化と人々の心の闇を反映した、複雑な出来事として記憶されています。

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