滋野清武

滋野清武：華麗なる飛行家の人生と、その波乱の生涯

滋野清武（しげの きよたけ、1882年10月6日 - 1924年10月13日）は、明治から大正時代を生きた、日本を代表するパイロットの一人です。男爵の家に生まれた彼は、華麗な経歴と、数々のドラマチックな出来事を経験した生涯を送りました。本稿では、彼の複雑で魅力的な人生を、詳細にわたって探っていきます。

音楽から始まった人生

滋野は、陸軍中将を務めた滋野清彦の三男として名古屋（または東京）で生まれました。13歳の時に父を亡くし、家督を継ぎます。当初は軍人としての道を歩むことを期待されましたが、芸術的な才能を持っていた彼は、広島陸軍地方幼年学校を中退。その後、音楽の道へと進み、東京音楽学校でコルネットを学びます。1908年には子爵の娘と結婚し、家庭を築きますが、2年後に妻を亡くすという悲劇に見舞われます。

飛行機との出会い

妻を亡くした悲しみを乗り越えるため、滋野は1910年に渡仏します。当初は音楽を学ぶ目的でしたが、パリでライト兄弟の功績に触れ、飛行機に魅せられます。彼はいくつかの飛行学校で技術を磨き、1912年には日本人として初めて、フランスで万国飛行免状を取得しました。亡き妻の名を冠した飛行機「和香鳥号」を設計し、帰国後、日本陸軍の教官を務めることもありましたが、再びフランスへ渡ります。

第一次世界大戦とエース・パイロット

第一次世界大戦の勃発により、滋野はフランス陸軍航空隊に志願。外人部隊に入隊し、エースパイロットが集まるコウノトリ飛行大隊に所属しました。スパッドVIIに搭乗し、主に地上支援に従事しながらも、6機程度の敵機を撃墜、日本人として初めて、そして日本航空史上初のエース・パイロットとなります。この功績により、レジオン・ドヌール勲章とクロワ・ドゥ・ゲール勲章を受勲しました。

恋愛と帰国

フランス滞在中、彼は戦争未亡人であったジャンヌと恋に落ち、結婚します。1917年には病気を理由に飛行隊を離れ、モンテカルロで療養生活を送ります。1920年にジャンヌと子供たちを連れて帰国しますが、航空事業への貢献を目指すも、肺炎と腹膜炎により42歳でこの世を去りました。ジャンヌは日本でフランス語教師として働きながら、子供たちを育てました。

波乱の家督相続

滋野の死後、彼の家族は男爵家の家督相続をめぐって争うことになります。ジャンヌが外国人だったため、宮内省から婚姻の許可が得られておらず、滋野とジャンヌの子供たちは法的に親権者不在の状態となりました。この問題には外務省や駐日フランス大使も関与する大騒動となり、最終的には家督相続権は消滅しました。

音楽への情熱とその後世への影響

飛行家としての活動が中心となる一方で、滋野は音楽への情熱を生涯持ち続けました。1913年には、国民歌劇会の賛助員を務め、日本のオペラ発展にも貢献しようと試みていました。

滋野清武の生涯は、華族の身分、音楽への才能、そしてパイロットとしての卓越した技量という、一見すると対照的な要素が複雑に絡み合った、ドラマチックなものでした。彼の功績は、日本における航空史に大きな足跡を残しており、現在でも多くの人々に記憶されています。また、家督相続問題に見られるように、時代背景や社会状況も彼の生涯に大きく影響を与えたことは否めません。彼の人生は、激動の時代を生きた一人の人間の、喜びと悲しみ、成功と挫折が複雑に織りなされた物語と言えるでしょう。

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