滑稽清水

滑稽清水

『滑稽清水』（こっけいきよみず）は、上方落語の中で特に人気のある演目であり、別名として『杢の市』や『壺坂』も知られています。東京落語では、4代目橘家圓蔵が『信心』というタイトルで演じることでも有名です。この演目は、視力を失った男が妻とその不倫相手の実態を願掛けを通じて知るという物語を描いています。

物語の主人公である按摩の杢の市は、友人の徳さんから妻のおとわが馬之助という男と不倫していると告げられます。最初は信じられない杢の市ですが、徐々に不安と疑惑が膨らみ、妻の帰りが遅いことに気づきます。「本当に徳さんの言う通りなのか？」と悩む彼の心情が描かれています。おとわが帰宅しても、その言い訳は杢の市には受け入れがたく、「羽織を貸せ」と強く求め、彼女の言動に疑念を深めていきます。

杢の市の中で何度も繰り返される「くやしいなあ...俺の目が見えたら」という思いが、彼の心に強く残ります。この不安で苦しむ彼は、視力を戻すために清水寺の千手観音に訪れ、視力回復を願掛けします。この願掛けを知ったおとわと馬之助は、自らも応じることに決め、「どうか杢の市の目が開きませんように」と願いを掛けます。

数日後、満願の日が訪れ、杢の市は清水寺で一心不乱に観音様に祈ります。「何とぞ観音様、わたしの目が開きますように・・・・あっ！見える！目が開いた！」彼の喜びはひとしおで、誰よりも早く感謝の祈りを述べます。その瞬間、彼の目に飛び込んできたのは、後ろで肩を寄せ合って拝む妻と馬之助の姿でした。「ああ、他所の夫婦は仲がええなあ」と呟く杢の市の表情から、滑稽でありながらも人間の愚かさに気づかされるのです。

このように、『滑稽清水』は視力が戻ることで明るみに出る人間関係の複雑さを描いた作品であり、初代桂文治が作ったとされ、更には宇井無愁が寛政5年の『かたいはなし』の一つとして原話を挙げています。この物語は、同じテーマが異なる形で表現されることもあり、異なる登場人物を用いるバリエーションも存在します。落語の豊かな歴史の中で、多くの人々に親しまれている作品です。

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