澤村田之助 (3代目)

三代目澤村田之助：美貌と悲劇の天才役者

三代目澤村田之助（1845-1878）は、幕末から明治時代にかけて活躍した歌舞伎役者であり、その美貌と類まれな演技力で一世を風靡した名優です。屋号は紀伊國屋、定紋は釻菊、俳名は曙山と、華やかな経歴の持ち主でした。しかし、彼の生涯は輝かしい舞台人生の裏で、数々の苦難と葛藤に満ちたものでした。

澤村田之助は、五代目澤村宗十郎の次男として誕生しました。幼少期よりその才能を発揮し、9歳で初舞台を踏むと、たちまち天才子役として注目を集めます。『都鳥廓白浪』での吉田松若役は特に好評で、四代目市川小團次に絶賛された逸話も残っています。

16歳で襲名した三代目澤村田之助は、たちまち人気女形として頭角を現します。美貌と美声に加え、確かな演技力で三都（江戸、京都、大坂）を魅了し、「田之助髷」、「田之助襟」、「田之助下駄」など、彼の名を冠した商品が生まれるほどの人気ぶりでした。二代目河竹新七（黙阿弥）の作品にも多く出演し、特に悪婆役を得意としていました。代表的な作品には、『処女翫浮名横櫛』の切られお富や、『月缺皿恋路宵闇』の欠皿などがあります。

しかし、華やかな舞台人生の裏で、田之助は過酷な運命に翻弄されていきます。宙乗り中に負傷したことがきっかけで脱疽を患い、病状は徐々に悪化していきました。やがて右足膝上、左足膝下を切断する手術を受け、アメリカから取り寄せた義足をつけて舞台に立つことを余儀なくされます。さらに両手の指も切断するに至りますが、それでも彼は舞台への情熱を捨てずに、工夫を凝らした舞台装置を用いて、役者としての道を歩み続けました。

明治5年、一度は引退し芝居茶屋を経営しますが、明治6年には自ら澤村座を開場して舞台に復帰。しかし、経営はうまくいかず、地方公演も多くこなすことになります。そして、病状と精神的な不安定さを抱えながら、明治10年に役者を廃業。翌年、33歳の若さでこの世を去りました。

田之助の人物像は、複雑で多面的なものでした。類まれな才能と美貌を持ちながら、気性が激しく、周囲との衝突も少なくありませんでした。九代目市川團十郎とは終生不仲で、五代目大谷友右衛門とも激しい確執がありました。一方で、五代目尾上菊五郎とは良好な関係を築き、度々共演しています。十四代目長谷川勘兵衛の舞台装置への工夫には感謝を示すなど、才能ある人間には素直に敬意を払う一面もありました。

彼の芸は、縁戚筋である四代目澤村源之助、六代目河原崎國太郎、九代目澤村宗十郎へと受け継がれ、歌舞伎の歴史に大きな足跡を残しました。数々の映画、小説、漫画、ドラマにも題材として取り上げられ、現在でも多くの人々にその生涯が語り継がれています。 彼の生き様は、才能と苦悩、華麗さと悲劇が交錯する、まさに歌舞伎役者としてのドラマチックな人生そのものでした。

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