澪標 (源氏物語)

『源氏物語』第十四帖「澪標」：愛と別れ、栄華と影

「澪標」は、『源氏物語』五十四帖中、第十四帖にあたる巻です。この巻名は、光源氏と明石の御方が交わした和歌「みをつくし恋ふるしるしにここまでもめぐり逢ひけるえには深しな」「数ならでなにはのこともかひなきになどみをつくし思ひそめけむ」に由来しています。これらの和歌は、深い愛情と、それをめぐる数々の出来事を象徴的に表しています。

光源氏の華麗なる復活と昇進

物語は、光源氏が28歳10月から29歳冬の出来事を描いています。罪を許された光源氏は都へ戻り、かつての右大将から大納言へと昇進。朝廷への参内の日には、3年ぶりに兄である朱雀帝と再会を果たし、兄弟水入らずの温かい時間を過ごします。その後、東宮とも再会し、長男の夕霧が殿上童として東宮に仕えている様子を目の当たりにします。

東宮の元服を機に、朱雀帝は帝位を冷泉帝に譲位します。光源氏自身も内大臣に昇進し、政治の中枢へと戻ります。一方、左大臣は太政大臣に任じられ、摂政に就任しました。

明石の御方と紫の上

明石の御方は無事に姫君を出産します。光源氏は将来の皇后となるであろう姫君の誕生を祝し、乳母や祝いの品を明石に送ります。しかし、この光源氏の喜びの姿は、子をもうけることができない紫の心に深い嫉妬の念を掻き立てます。

秋には、光源氏は住吉へ盛大な参詣に出かけます。偶然にも同じ日に住吉を訪れた明石の御方は、光源氏のきらびやかな行列を見て、改めて身分の違いを痛感します。光源氏は、藤原惟光からの知らせで明石の御方が訪れていたことを知りますが、すでに御方はその場を去った後でした。光源氏は、声をかけることもできずに立ち去る御方の姿に心を痛め、使いを遣わして歌を交わします。この歌のやり取りは、二人の間の微妙な距離感と、変わらぬ思いを繊細に表現しています。

六条御息所の死と斎宮の将来

この頃、六条御息所と娘の斎宮も都へ戻っていました。しかし、六条御息所は病に倒れ、しばらく会っていなかった光源氏も、見舞いに訪れます。死期を悟った六条御息所は、光源氏に娘の将来を託し、決して愛人として扱わないよう強く願って息を引き取ります。光源氏は、斎宮への未練を感じながらも、御息所との約束を守り、斎宮を養女として迎えます。

朱雀院から斎宮を妃に迎えるよう要望が来ますが、藤壺の助言を得て、光源氏は斎宮を冷泉帝に入内させることを決断します。この決断は、光源氏の将来への展望、そして過去の愛との決別を示唆しています。

「澪標」の意義

「澪標」は、光源氏の栄華と、それに伴う複雑な人間関係、そして過去の愛との決別を描いた重要な巻です。明石の御方や六条御息所との別れは、光源氏の心の葛藤と、未来への希望を象徴的に示しており、『源氏物語』全体の物語展開に大きな影響を与えます。様々な愛の形、そして権力と人間の心の機微が繊細に描かれた、読み応えのある一編です。

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