瀬取り

瀬取り（せどり）

瀬取りとは、海上において船舶から別の船舶へ荷物を積み替える作業を指します。古くは、港湾施設が未発達であった時代に、大型船が接岸できない場所で沖に停泊し、小型船に荷物を移し替えて陸へ運ぶ手段として用いられました。日本でも江戸時代には、港に入れない大型の廻船から小型の船（茶船など）へ荷（特に下り酒など）を移し替えて陸揚げする際に行われていました。しかし、港湾の整備が進み、陸上輸送網が発展するにつれて、物流手段としての瀬取りは次第に減少していきました。

現代における瀬取り

現代では、瀬取りは合法的な物流手段として行われるケースもありますが、違法行為の隠蔽に利用されることが多くなっています。代表的なものとしては、覚醒剤などの違法薬物密輸の手段として利用されるケースです。洋上で複数の船が接触し、人目を避けて積荷を移し替えることで、捜査当局の追跡を困難にします。過去には、日本沿岸に大量の覚醒剤が漂着し、洋上での瀬取りに失敗した結果であると推測された事例や、伊豆半島を拠点としたグループによる1トンもの覚醒剤密輸事件で瀬取りが悪用された事例などが報告されています。

北朝鮮による経済制裁逃れ

特に近年、国際的な問題となっているのが、朝鮮民主主義人民共和国（北朝鮮）による経済制裁を回避するための瀬取りです。国連安全保障理事会は、北朝鮮の核・弾道ミサイル開発に対抗するため、同国に対する厳しい経済制裁を決議しています。これには、北朝鮮籍船舶への、あるいは北朝鮮籍船舶からの洋上での船舶間での物資の積替え（瀬取り）を幇助することの禁止が含まれています。

しかし、北朝鮮は、石油精製品などを不正に入手するために、公海上などで他国の船籍を偽装した船舶や協力関係にある第三国の船舶などと接触し、密かに物資の積み替えを行っています。この行為は、国連安保理決議に明確に違反するものです。2018年には、北朝鮮が短期間に制裁決議で定められた年間輸入上限をはるかに超える量の石油製品を、多数回にわたる瀬取りによって不正に入手したと指摘されました。

国際的な監視と対応

北朝鮮によるこうした制裁逃れの瀬取りに対抗するため、国際社会は連携して洋上での監視活動を強化しています。日本、アメリカ、韓国、カナダ、イギリス、フランス、オーストラリア、ニュージーランドなどが、艦艇や哨戒機を派遣し、東シナ海などを中心に警戒監視を行っています。特に東シナ海の特定海域は、瀬取りが多く確認されることから「瀬取り銀座」とも呼ばれています。日本の海上自衛隊や海上保安庁も、この監視活動の重要な担い手です。

各国の政府や機関は、監視活動で確認された不審な船舶の情報などを国連安保理の制裁委員会に通報しています。日本政府は、北朝鮮籍タンカーと様々な船籍の船舶との間で洋上での接触・積替えが疑われる多数の事例を確認・公表しています。また、アメリカ政府は、不正取引に関与した船舶や関係企業に対して独自の制裁措置や資産没収などの対応をとっています。韓国政府も、自国籍船を含む制裁違反が疑われる船舶を抑留するなど、取り締まりを強化しています。

国際海事機関（IMO）も、船舶の登録国を偽装したり、位置追跡装置（AIS）を意図的に停止したりするなど、不正な瀬取りに悪用される手口への対策として、船舶の透明性を高めるための国際的な取り締まり強化策について合意を進めています。

結論

瀬取りそのものが常に違法であるわけではありませんが、現代においては、国際的な制裁回避や組織的な犯罪（特に密輸）の手段として利用されることが多く、これにより国際的な監視と規制の対象となっています。各国による協力と監視活動は、これらの違法行為を阻止するための重要な取り組みとなっています。

もう一度検索